歯医者その5

歯医者5回目。前回、


「私は毎晩歯磨きしている時、オカムラさんのこと思い出しましたよ。
ちゃんと丁寧に歯磨きしてるかなーって」
「だからオカムラさんにも毎晩歯磨きする時は私のこと思い出してほしいんですね」


なんて言われている。
僕としてはもう歯医者で歯を治しているという感覚はなく、
気分的にはぶっちゃけた話キャバクラで楽しいひと時を過ごしているのと一緒。
キャバクラ嬢ですら例え嘘でもこんな夢のあるようなことは言ってくれない。


もう毎日でも通いたい。
優しく歯を磨かれたい。


・・・そんな気分でいたのであるが。
昨日の夜行ってみると前回ほど話し掛けてくれない。
世間話っぽい話をすることもなく、ただ淡々と歯石を取る作業が続く。


前回が幻想だったのか。


前回の治療が終わった後、「お疲れ様でしたー」と言われていたにも関わらず、
(しかもたぶん笑顔で)
僕、上の空で歩き去ったんだよなあ。
そういうのがいけなかったのかなあ、なんて考える。


たまにちょっと話し掛けられた時には
「はい」「いいえ」レベルではなくてこちらからもあれこれ返すようにする。
角度によっては歯石が取りにくいようだったら、それとなく口を大きく開けるようにする。
いつのまにか、「どうしたら好印象を与えられるんだろうか」ってことを考えている。


なんだか今日はどことなく急いでいるような感じがして、
ふと時計を見ると終業時間である19時が近付いている。
「この後彼氏とデートだろうか・・・」そんなことを思う。
これだけかわいい人なら彼氏だっているよな・・・。


結局のところ僕はただの患者の1人でしかない。


歯医者のベッドに横たわりながら切ない気持ちになっている僕っていったいなんなのか・・・?


最後に歯を磨かれている時が一番切ない。

(続く)