歯医者その7

次の週になって、また歯医者へ。
今回はちゃんと診察台に横たわる。
歯科医の先生が歯茎に麻酔を打ち終わると後は2人きり残される。
歯石を取る。今日は下の右側。


「この前オカムラさんがモロッコとドバイの話をしたんで、
私本屋に行ってどんなとこか調べてみたんですよ。
でもモロッコのはあったんですけど、ドバイってなかったですね」
(口を思いっきり開けて)「ほーでふか」
「友達にも聞いたんですけど、みんなドバイのこと知らないって」
ふーむ、そういうものか。
20代の女性ならば誰もが知ってるのではないかと僕は思っていたのだが、
どうもそうではないらしい。
実際にそこに行く・行けるは別として、
女性たるもの世界のリゾート地には目ざといものなのではないかと。


「それで、モロッコの本を読んだんですけど、すごいとこみたいですね」
(再度)「ほーでふか」
「女性の一人旅は危ないって書いてましたよ。
知らない男に声かけられても絶対ついて行っちゃいけないって。
私なら絶対1人じゃ行けない」
彼女は「1人」ってところを強調して話した。・・・ように僕には思えた。


「それでもう1コ、本見たら覚えたことがあって。
ロッコってお酒を買うのに年齢制限がないみたいですね」
「そうなんですか?」
口をゆすいだ直後だった僕は聞き返す。そんな話初めて聞いた。
あれだけ酒が手に入りにくかった国だったのに。
「それは知らなかったですね」
「えーでも海外に旅行に行くとなったらその国のこと調べるでしょう?」
そりゃそうだけど。だけど少なくとも「地球の歩き方」にはそういうこと載ってなかった。
彼女は何を読んだんだろう?
そういえばこれまでの何回かの治療の間に彼女は
「お酒を飲むことが好きだ」みたいなことを言っていたのを思い出す。


また横になって歯石を掻き出すのであるが、その前に。
「モロッコの食べ物ってどうなんですか?」
「正直あんまりおいしくなかったですね」
「えー?そうなんですか。私世界のいろんなところの食べ物のお店に行って
食べるのが好きなんですよ。モロッコって香辛料が効いてておいしそうなイメージが」
「でも、確かにスパイスはたくさん入っているんですけど、
そもそも味がないんですよ!しょっぱいとか、辛いとか」
「えーそうなんですかあ?」そう言って彼女は笑う。


恒例の歯磨きの時間となる。
最近どういうところに気をつけて磨いてますか?
どういうところが磨きにくいですか?
もう何回も通ってその度に指導を受けているので
僕の磨き方はだいぶ向上していると誉められる。
歯茎の様子を見ただけですぐわかるのだそうだ。


歯石を取るのも今日で一段落。
さらなる歯と歯茎の美容と健康への道を
今後は僕自ら切り開かなくてはならないようだ。
プラーク・コントロール」という言葉、聞いたことありますか?
ってとこから始まり、歯周病の予防のために歯間ブラシの使い方を覚えて
歯と歯の間のばい菌を取り除くようにしましょうという指導を受ける。
5cm ほどの小さな細長いプラスチック。
その先端部分が折れ曲がり、その先には 2cm ほどのブラシがくっついている。
年上のいとこが歯科衛生士で、家に行くと歯ブラシの横においてあって
「これって何に使うものなんだろう?」と不思議に思ったことを思い出す。
このブラシを歯と歯の間に差し込んで2・3回前後に動かして歯石を取り除く。
説明を受けてやってもらってると簡単そうに見えるのだが、
自分でやってみると非常に難しい。奥歯にうまく入らない。
特に寝そべってたりするともう至難の業。
右手で持って左の上の奥歯なんて不可能に近い。
「どうですか?」と聞かれて
素直に僕は「・・・難しいですね」と答える。
「慣れるまで時間がかかります。どうしてもダメなようなら、他の手段を考えましょう」
そんなふうに彼女は言う。


「とりあえず1ヶ月試してみてください。
そして1ヶ月後に歯の様子を見せてください」
歯科医の年上の女性が最後にちょっとだけ戻ってきて、
「歯石を取るコースは終了しました」みたいなことを言う。


次は1ヵ月後か。
そしてこれで通うのも終わりか・・・。
僕が何も言い出さなきゃ終わりとなってしまう。
無理やり治療を引き伸ばすために
左右の親知らず抜きますぐらいのことはしてもいいかなぐらいに僕は考える。
毎晩寝る前に鏡の前に立って歯間ブラシで歯と歯の間に差し込みながら。
(何日も続けているうちにだいぶうまくなった)