若い女性にビールをぶちまける

【証言A】
あれは7月初めの日曜日のことでした。
以前とある仕事でご一緒させたいただいた方が上京してくるということで、
飲みに行きましょうということになったんです。
あの年は猛暑でしたね。あの日もまた暑い1日だったことを覚えています。
関西の方だったのですが、なぜかその時僕が入りましょうと提案した店はネギ焼きの店でした。
関西の方ってよく、家でタコ焼きを作って食べるのが当たり前で
関東に引っ越してくるときマイ・タコ焼器を必ず持ってくるって言うでしょう?
食べ飽きてるに違いないのに「関西」から連想されて僕の頭の中から離れなかったのは
あの年の正月、生まれて初めて行った大阪で食べたネギ焼きだったんですね。
しかも運の悪いことに待ち合わせの時間の前に新宿駅の東口をブラブラと歩いていたら
見つけてしまったんですよ、ネギ焼きの店を。
普通に東京の食べ物を食べていればよかったんです。
そうしていたらあんなことにはならなかった。


【証言B】
ええ、そのときまでは普通に飲んでいました。
地下にある店で、けっこう待たされました。
そうですね、刻んだネギだけを大量に焼くのがメニューにあったりして、
最初は「何これー?」と笑っていたんですが、
ネギに味がついていて鉄板の上で焼いてみるとおいしかったです。
××さんですか?ええ、既に3杯か4杯は飲んでたと思います。
中ジョッキで。ビールを。他の飲み物は飲もうとしませんでした。


【証言A】
その件については、正直言ってあんまり思い出したくないんです。
後味悪いんで。
彼女たちが店の奥に消えてしまってから、「どうしよう、どうしよう」と思いました。
こういうとき、大人としてどう接するべきなのか。
彼女たちがトイレから出てくると、
彼女たちは食べてたもの飲んでたものをそのままにして店を出ようとしていました。
僕が彼女たちを呼び止めて、とっさの思いつきで言ったのはこういうことでした。
「ここの飲み代は僕が払います」「クリーニング代というわけではないですが」
僕の隣に座っていた子はもうまともに話もできない状態でした。
もしかしたらトイレの中で泣いてたのかもしれません。
(僕自身、正直言ってたかがビールと思うのですが・・・、腹立てて喧嘩になるのならわかります)
なので主にもう1人の子の方と話しました。
気が付くと彼女たちはいなくなっていました。


【証言B】
ええ、かなり驚きました。
「ちょっとー!なによこれー!!」だったと思います。第一声は。
運の悪いことにブーツを履いていたんですよね。彼女は。
だから左足が全部、ブーツの中まで・・・。
××さんですか?彼はほぼ放心状態でした。
お店の人がおしぼりを持ってきて拭いている間、ぼけーっと眺めてるように見えました。


【証言A】
僕、そういうところあるんですよね。
何か起こってしまうとパニクって動けなくなってしまう。
慌てふためくのならまだいいんでしょうけど、完全に頭も体も動かなくなってしまうんです。


【証言B】
仕方がないんで私は立ち上がって、手近にあったおしぼりを何個か渡したんです。
ハンカチも渡したかもしれません。
声もかけました。でも、なんと言ったのかは今では覚えてないんです。


【証言A】
その後ですか?僕らもすぐに店を出て別な店に入りました。
でもビクビクしてましたね。新宿を歩くときは。
や、別に彼女たちが待ち伏せしていて仕返ししてくるとか、
どこかの店で不機嫌そうに飲みなおしてるんじゃないかとか、
うまく言えないんですけど、そういうことじゃなくて。
でも、そういうビクビクしたところは見せたくないんであくまで平常心で振舞おうとしました。


【証言B】
次の店では普通に飲んでました。
最初からあの店に入ってればよかったです。
七輪の上でいろんなものを焼くんです。おいしかったですね。
××さんが何度か行ったことのある店でした。
東京は暑かったですね。
ええ、もちろん京都も暑いですが。
あの年は猛暑でしたね。
あの日もまた暑い1日だったことを覚えています。