UFOには乗せてもらえない

頭痛がひどくなったんで会社早退して夕方に家の近くを歩いていたら
去年アパートを取り壊した後の空き地にUFOが着陸していて
ガキの頃に読んだ本で今でも俺名前覚えている「アダムスキー」型だ、
平べったい灰色の円形のボディの下側に赤青黄色の3つの半球がくっついていて
上側にはミルク色の半球が1つくっついていてそれが炊飯器の蓋のようにパカッと空いていて
ちょうどそのとき宇宙人が出てくるところだった、
スゲースゲーと俺は思うが他に道路を歩いている人は目もくれず通り過ぎていくようで
常識を兼ね備えた一般市民を決め込んで
見てみぬフリをして係わり合いをもたないようにしているのか
それとも本当に見えないのか俺にしか見えないのか
だけどどっかで犬が狂ったようにギャンギャン吠えてうるさかったので
あれはこいつらに対して吠えているはずだ絶対間違いない、
そんで俺は出てきたやつらに近付いて挨拶代わりに右手を振り上げ「よお」と声をかけてみたところ
やつらの1人もまた「ヨー」と声をかけ、右手の替わりに左手を高く差し上げた、
そしてそいつが俺の側まで寄ってくるので俺はこりゃチャンスだと
「なあ、俺も宇宙に連れてってくれないか」と頼んでみたら
「ダメだ、なぜなら君はチキュー人だから」と言われた、
声にはっきり出されて言われたんではなくて俗に言うあれだ、テレパシーだ、
俺の心の中にビカビカ光るような音で話し掛けてくるんだな、やつらは、すげえよ、もう
俺はへりくだろうと土下座して「頼む!この通り!」と頭を下げるのだが
「だめナモノハだめー」としか言わないので俺は腹を立てる、思いっきり腹を立てる、
てめえむかつくんだよばかやろう、こいつぶん殴ってやろうかとまで思うのであるが
「まあ待て待て、大人気ない」と心を静めて顔を上げる、驚いたことに
周りには宇宙人だらけだった、全身緑色のやつと青のやつとが半々で
この閑静な住宅地の至るところに出入りしていた、
普通の人の1.2倍、20%増量のスピードでちょこまかちょこまかと動いていた、
あるやつは家の2階の窓を開けて布団を取り込みまでする、青いやつがだ、無表情で、
そして窓を閉めると消えていなくなる、辺りを見渡すと俺はこの俺は宇宙人たちに取り囲まれていた、
UFOの中にはゾロゾロゾロゾロと宇宙人たちが消えていく一定の間隔ではしごを上って消えていく、
両手には無地のダンボールを抱えて、そう、やつらははしごを上るときに手は使わず
絶妙なバランス感覚でもってスタスタと足だけで上っていく、たいした芸当だ、
そのまま突っ立って眺めていると体の右半分が赤で左半分が黄色のやつが目の前に現れて
「ああたぶんこいつが一番偉いんだろうな」と瞬時に俺は悟って
さてどうしたものかと思案しているうちにやつは空中に隠れていた何かをさっと捕まえると
それは形のある何かとなりその次の瞬間そいつから光線が発せられていた、
そしてそれはこの俺を直撃したガキの頃アニメで見たような雷のようにギザギザした
オレンジ色の光だったキミドリ色のものもあった
体から力が抜ける俺は気を失ったようだ


目を覚ますと夜になっていた、月が出ていた星が出ていた俺は起き上がって埃を払おうとした、
黒の買ったばかりの会社カバンがなくなっていた、
「あー」と思いケツのポケットを探ると財布もなくなっていた、
靴が片方脱げていた、辺りを見回してもどこにもなかった、
できの悪い子供か犬が持ってくか咥えるかしたに違いないないほんとこの社会はちっともなってない
俺は立ち上がるとヨレヨレのスーツのまま歩き出したそして
アパートまで歩いていって階段を上がっていってそこで初めて俺は鍵がないってことが分かった
鍵がなきゃ中には入れないってのは世の中の道理だ日本全国の人が知っている、
俺は自分の部屋とされる部屋のドアをドンドンと叩いた、ドンドンドンと叩いた、
ドンドンドンドンと叩いた、ドンドンドンドンドンと叩いた、ドンドンドンドンドンドンああくだらねえ
こぶしで殴ってしまいには蹴りまで入れた、だけど中には入れないんで
仕方がないから階段を下りてあてもなく通りを歩いたコンビニが明るかったので中に入った
カウンターの中でだるそうに立っていた高校生ぐらいの髪の茶色いすすけたような女が
携帯か何かを脇において「いらっ・・・ませー」とやる気なくこの俺に向かって言った
どうせ彼氏とやることしか考えてないだろう、着ているコンビニのジャンパーは真っ黒く汚れていて
俺は無性に腹が立ったそれゆえに口を突いて出た言葉がこれだ
「金を出せ、おまえは死ね」なぜかわからんがこの言葉だ、それしか思いつかなかった
そこから先はたいした話じゃない俺は殴られていた、後ろから殴られた、そのまま後ろか前に倒れこんだ、
どっちだったのかはどうでもいいたいしたことではない
そして頭の上ものすごく高いところからサイレンが鳴った、
サイレンがサイレンがグルグル・ウーウーと鳴った(記憶がない)
後で「どうしてそんなことをしたんだ」と聞かれて俺は答えた、
やけに座りごこちの悪いパイプ椅子だなとそればかり気にしながら
いかにふんぞり返る姿勢が様になるか考えた、そしてこの俺様は答えた、
「宇宙人がこの俺をUFOに乗せてくれなかったからだ」