「マルホランド・ドライブ」

昨日見た「21g」はナオミ・ワッツが主演だった。
いつだったかボーナスで買ったDVDの中に「マルホランド・ドライブ」があったことを思い出す。
劇場で見ていない。見てみたくなって買ったんだけど、それっきりそのまま。
連休で時間的に余裕があるってこともあってようやく見ることができた。


監督はデヴィッド・リンチ
前作「ストレイト・ストーリー」がそれまでのリンチらしくない心温まる作品で、
「リンチも普通の人になったのか!?」「リンチも人の子だった」などと言われたものであるが、
マルホランド・ドライブ」でしっかりと奇妙奇天烈なリンチ・ワールドに戻っていった。
ストーリーがわけわかんなくてむしろほっとする。
こういう域に達してこそ巨匠。新作が待ち遠しい。


わかるようでわかんなくてどことなくわかりそうでやっぱわからない。
ストーリーを要約しても仕方がない。
なんというか、スタート地点からストーリーという木が
無数に枝葉を分裂していく様子を早回しで見せられるような感覚。
その最前線をパッパッと手際よく切り替えていくことで場面が移り変わり、
見ている方は「おおおお?」「ああああ?」と思っていくうちに2時間半が終わってしまう。
それでいてそれら枝葉の最前線はてんででたらめに拡散していくことはなく
ものすごく太い幹が背後にあるのを感じさせるのだから、
濃厚な生命力を感じさせ、常にその不思議な力へと収斂していくのであるから、
リンチの演出力というか構成力というか美的感覚ってのはたいしたものである。


社会的なメッセージが分かりやすく前面に出ていないと
「何を言いたいのか分からない」の一言で切り捨てる、そういう人も世の中にはいる。結構いる。
(ま、そういう人はたいがい映画を見ないが)
マルホランド・ドライブ」はそういう人もねじ伏せるだけの力があるんじゃないかな。
「何がなんだか一切分からないけど最後まで見ちゃった」というような。
イレイザー・ヘッド」「エレファント・マン」その他有名な作品みんなそうだけど。
マルホランド・ドライブ」はそういう系譜に連なるリンチの新しい代表作だ。


映画監督ってのが自分の頭の中に広がっているウネウネグニョグニョしたものを、
もっと分かりやすく言うと個人的な妄想を、
現実世界に構築することを仕事としている人だとしたら
デヴィッド・リンチはその第一人者である。


マルホランド・ドライブ」もすがすがしいくらいに煙にまかれる。
素晴らしいです。