Life on Mars

朝6時前に起きて、スーツに着替えてコートを羽織って外に出る。
空はまだ明るさに乏しく青ざめた色をしている。
その空のはずれの方、住宅の屋根に次ぐ屋根で形作られた地平線の果ては
オレンジ色に染まっている。朝焼け。


ふとこんなことを思う。
地球の空が緑色で、朝焼けとか夕焼けの色が黄色だったりしたら
僕らの生活はどうなっていただろう?
人類の歴史はどんなふうに発展しただろう?
駅に向かって歩きながら、続けてこんなことを考えた。
火星の空が赤いとかってのはどうも違うらしい。
これは最近の研究でわかった。探査機を飛ばして、莫大な量のデータを地球に送信する。
それを地球にいる科学者たちが解析したわけだ。
ピンク色にうっすらと染まった空。夜が近づくとそれは赤紫へと深まっていく。
その移り変わりは、赤錆びた地面の色からの昔の人たちの連想だったのだろうか?


青梅街道の交差点を渡る。
大気があって、水がふんだんにあれば、火星にいても暮らしていけるのかもしれない。
あるいはドームのようなものを建造して、そこに都市を築くか。
透明な素材で作られた、とてつもなく大きなドーム。
そんなのが火星の地表にポコポコたくさん作られて、
その中の1つは日本人ばかりが寄せ集まって住んでいて、
東京が再現されて、中央線も走っているかもしれない、そんなことを僕は考えた。
「僕」は地球にいるのと大差ない生活を向こうで送っている。
アパートがあって、会社と往復している。会社ではコンピューター関係の事をしている。
(それがどこであろうと、今後人類の生活にコンピューター関係の仕事はなくならない・・・)
「僕」は宇宙服を着てるなんてことはなくて、普通にスーツ。
百歩譲ってジーパンにTシャツにスニーカー。
新譜が出るとCD屋に買いに行って、給料日前は立ち食いそばを食っているのだろう。
あぁー。


とりあえず今、現時点で火星で生活できるようになったとしても
劇的にライフスタイルが変わってるってことはなくて、
地球上でのそれを模倣することから始まる。
ニューヨーカーはニューヨーカーのままだし、エスキモーはエスキモーだし、
東京都杉並区民は東京都杉並区民のままなのである。
21エモン」のようなペラペラな格好をして
21エモン」のような毎日を送っているとは到底思えない。


そしてそれは、空が真っ赤だとしても変わらない。
ある日突然真っ赤になったのだとしたら驚いて仕事も何も手につかないだろうが、
「火星の空は真っ赤ですよ」と初めから言われていたら、
「ま、そんなもんか」と思いながら暮らし始めるのだろう。
スペースシャトルから降りて2・3日は「おかしなもんだなあ」と
頻繁に空を見上げることになるんだろうけど。


火星で残業。火星で立ち食いそば。火星でお立ち台。
火星で高校野球。火星で麻雀。火星でレインボーブリッジ。
ビバ、日本人。