5時起き。トイレに入っているとモーニングコールの電話がかかる。
出る。「Hello ?」と言ってみるが向こうは何も言わない。切る。
こういうのって機械が自動的にやってるのだろうか。
1階で食事。あんまり腹が減っている気がせず、少しだけ。
ソーセージとスクランブルエッグぐらい。
というかビュッフェに相当飽きが来ている。
部屋に戻って荷造りして、スーツケースを外に出す。
ポーターが運んでいく音がする。
チェックアウト。
冷蔵庫も電話も利用せず、鍵を返すだけ。
ガイドのMさんの姿が見える。
が、今日からは別の方がガイドとなる。
ペルー人のDさん。
1999年に紀宮様が個人的に(と言っても警備の人が大勢いたわけだが)
ペルーを旅行されたときにクスコ−プール間のガイドを担当したのだそうな。
紀宮様は英語もスペイン語も堪能で通訳は不要だったとのこと。
ホテルの外はアンデスの物売りたちが待ち構えていた。
チャランゴ、ケーナ、縦笛を売る人。
ガイドブックや写真の束を売る人。
もちろんセーターを売る人もいる。
昨日マチュピチュでいつのまにか撮られていた写真を
クスコの空港に降り立ったときのように絵葉書にしたものを
人数分用意して売る男性。バスの中まで入ってきて写真を見せる。
僕の分が見つからなかったので買わず。
こういうのって現地旅行会社の手配・手引によるものなのだろうか?
バスに乗って出発。
添乗員のKさんより今日の日程の説明を受ける。
基本的に移動日。
クスコからチチカカ湖湖畔の町プーノへ。バスで380kmも走る。6時間半の行程。
移動手段としては列車もあるが、それだと9時間もかかる。
毎回飛行機では味気ないし、バスの旅も風情があっていいでしょうということか。
標高は現時点で3400mだったのがいったん300m下がって、
その後クスコとプーノの県境「ララヤ峠」にて
4315mという今回の旅の最高地点へ。ついに富士山よりも上。
途中シルスタニ遺跡に寄って、プーノ到着は夜。
サンヘロニモの町に差し掛かる。
農業が盛んな、クスコに住む人たちが週末を過ごす静かな町。
馬に乗った男がのんびり道路を歩いている。
グラウンドで子供たちがサッカーをしている。
ガイドのDさんがコカの葉をたくさん持ってきて、バスの中のみんなに配る。
根元を切って口にくわえ、鼻で息をするとよい。
あるいは額に張るのもよい。
「さあ、みんなで額に張りましょう」
何人かの人が額に張った。
最初の休憩ポイント。
無添加の大きなパンを作って売っている。
直系30cmはあるだろうか。「チェタ」という名前。
トイレのある建物の奥の方にパンを焼く窯があった。
この町でたくさんパンを作ってクスコに持っていくのだそうだ。
(今調べたら、町の名前はたぶんオロペサ)
こっそりトイレチップを払わずにいたら、
出発直前にDさんが僕のところに来てチップを払うように求められた。
しっかり見ている。ルールはちゃんとしましょうってことか。
トイレでは丸いトレイをもった女性が立っていて、チップを受け取っていた。
町を過ぎるとそこから先はひたすらとうもろこし畑、牧草地、山。
風景が代わり映えしなくなってくると本を読む。
ところどころ顔を上げて、なんか目につかないかと眺めてみる。
時々なんとなく写真を撮る。
「ラム・パンチ」を読み終えて、次はP・K・ディックの「スキャナー・ダークリー」
新しい訳で10年ぶりに読み返す。
ほんとこれ、素晴らしいね。
SFとしてのベストは60年代の諸作
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」「ユービック」「高い城の男」辺りなんだろうけど、
文学作品としてのベストは絶対これだね。
翻訳を読んでて言うのもなんだけど、これ、文章がとてつもなくいい。
簡潔にして大切なことしか書いていないというか。
麻薬中毒者の壊れた日常生活が果てしなく描かれてるんだけど、
それが終始冷徹な目で淡々となされている。なのに突き放さない。
物事の外側にいて客観的に書いているはずなのに、
物語の内側にもいるような奇妙な熱を帯びている。
この手の文学としてはバロウズの「裸のランチ」に匹敵するね。
道端に十字架が立てられているのを時々見かける。
小さな墓地や、1人埋葬された墓も目にする。
草原に湖が広がる。
水が澄み切っていて、向こうの山が水面に映っている。
山は茶色の地肌が露出していて、
背の低い草やあるいはモコモコとした植物に覆われている。
雲の影が斜面に広がる。
インカ時代の関所。大きな四角い岩を並べて門となっている。
かつてここで旅人に対して入国審査がなされた。
薄茶色の土。家を形作るレンガも薄茶色。壁も屋根も薄茶色。
クスコの土が赤茶けていて、壁が赤茶けていたことを思い出す。
その土地で取れる土で、彼らは家を作る。
料金所を通過するため、バスのスピードが落ちる。
野良犬をよく見かける。
牛や羊が道路にフラフラと出てくるため、
バスはひっきりなしにクラクションを鳴らしている。
やがて道路は川と平行して走るようになる。
ビルカノダ川、とメモにある。
ララヤ峠の方から流れ、大西洋へと注ぎ、全長は7000kmにも及ぶ。
羊飼いがのんびりと歩いている。
「トゥパック・アマル記念運動場」と名づけられた
小さな運動場で子供たちが遊んでいる。