「The Soft Parade」

今月号のレコード・コレクターズの特集がドアーズだったので買って読んでみた。


(最近は Rockin'on は毎月買っても読むことはほとんどなくて、
 たまに買うレコード・コレクターズの方を熱心に読んでいる。
 先日の25周年記念、3号連続の
 60年代・70年代・80年代別のベストはとてもいい特集だった)


無人島に持っていく1枚となると別なものになるんだろうけど、
無人島に「1グループのアルバムを全部持っていってもいい」となると
たぶん僕はドアーズを選ぶと思う。とりあえず今の僕は。
ビートルズじゃないんですよ。
土壇場で迷いに迷ってストーンズに変えることはあるかもしれない。
でもそのときは無人島でドアーズが聞きたくなって、
「The End」の虚無に心の底から浸りたくなって、死ぬまで後悔することになるだろう。


この世で最も好きなグループか、というとそうでもない。それに近いけど。
どちらかと言うと、「無人島に持って行きたい」グループなのである。
それはつまり、このグループにロック・ミュージックの最良の部分の全てが詰まっているから、
なおかつ「The Doors」という大きな世界観が(いい意味で)きちんと自己完結しているから、
ということなのだと思う。
これさえあればいい、という気持ちにさせてくれる。
過去も現在も未来も、全て補完してくれる。
いや、時間が止まってしまっていて、「永遠」というものが瞬間パックされているように思う。
ドアーズを聞いていると、生も死もなくなる。


「ロック・ミュージックの最良の部分」ってところを補足すると、
ドアーズの場合、幻想上の狂気と結びついた都会人的な後天的粗暴さ・凶暴さが
冷静な知性に裏付けされたクールさによって
コントロール・演出されているって雰囲気があって、
ゼロとマイナスの間のどこかにある生々しい感情をいつだって掻き立ててくれるんですよね。
しかもそれが他人に対して向かうのではなく、あくまで自分の内面の奥底へと向かっていくという。
聞いてるといろんなものが沈み込んでゆく。囚われの身となる。
そこまでの荒々しい力を持った音楽は、他にほとんどない。
一言で言うと、退廃的。
上っ面の見た目じゃなくて、ひどく本質的な部分で。
聞き続けると、確実に人間が蝕まれていくだろう。


好きな曲はなんと言っても「The End」なんだけど、
その次に好きなのは「The Soft Parade」
でもこの曲がベストアルバムに入ることはない。
4枚目のアルバムの表題曲なのに。評価は低い。
レコード・コレクターズの特集でも評論家の大鷹俊一氏がこんなふうに書いている。

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惜しまれるのがタイトル・トラックで、
饒舌な分だけ一語一語の重さが薄れてしまっているのと、
サウンド・アレンジもちょっと軽すぎて、
全体でかつてのような重量感を醸し出してないところに
当時のバンドの姿がみごとに反映されている。

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確かになー。
この4枚目はジム・モリソン色が薄く、ポップ路線でホーン・セクションを導入、
みたいな紹介のされ方が定番。
そのタイトル曲だけあって、その「折衷」感の代表のよう。
それまでの未発表曲を無理やりつなげたかのようなツギハギだらけで
聞いてると曲調がどんどん変わっていく。
でもこの「ぶつ切り」感が21世紀の今、リアルだったりして。
少なくとも僕はここに妙なリアルさを感じる。
バラードっぽかったりワルツっぽかったりする小品が続いた後で
最後は全てぶち壊すように暴力的な展開となる。
同じ長大曲であっても「The End」や「When The Music's Over」のような
首尾一貫した叙情性は皆無。
ただただ、粗暴で投げやりな混沌があるのみ。
「これってなんだったの?」「どうしてこんなことになってしまったの?」
そんな疑問だけが残る。
その答えを知りたくて僕は何度でも繰り返し聞いてしまう。
そしてこういう状況ではよくありがちなことに、聞けば聞くほど謎は深まっていく。
つまりこの曲はドアーズの他の曲にない、
不思議な色と形をした傷跡を、僕の心の中に残してしまったわけだ。
それが今も残っている。
・・・僕はその傷跡をいとおしむ。


昨年出た先日40周年記念リマスタリングの全アルバム収録ボックスセットを先日買って、
同じリマスタリングを使用している最近になって出た2枚組のベストと1枚組のベストも買った。
ベストなんて何枚も持ってるのに。
同じ音源が入っているのだからボックスセットを買ったら事足りるのに。
でもついつい買ってしまう。
そしてこれらのベストアルバムには結局「The Soft Parade」は入っていない。
なんだかとても寂しく思う。
僕がこの曲に対して抱いている気持ちは特殊すぎるのだろうか?


いや、ベストアルバムに決して入らないがゆえに、
僕はこの曲を愛しているのだと思う。