毎朝すれ違う夫婦

朝、早いときは7時前に田町の駅に到着して芝浦のオフィスまで歩いていく。
途中コンビニに寄って、僕の足でも15分ぐらいかかる。


芝浦アイランドの高層マンション群に差し掛かった辺りで、いつもすれ違う夫婦がいる。
年齢は僕と同じぐらいか。
どちらも顔は、・・・ブサイクに近い方で、だけど2人はいつも楽しそうだ。
はっきり言うと幸せそうだ。
手を取り合ったり、腕を掴んだり。会話も弾んだり。


例の高層マンションの中から出てくるところを見たことがあるので、そこの住民なのだろう。
安易に割り切ってしまうならば人生の勝ち組ってことになる。


僕はいつもすれ違うとき、いろんなことを考えてしまう。
その日によって考えることは違う。
それをイチイチ、ここでリストアップはしない。
コンビニの袋に volvic と朝食用のヨーグルトを入れて会社へと向かう自分。
その距離感についてあれこれ考える、とでも言っておこう。


僕は「ああこれから仕事が始まる」という憂鬱な気持ちで
顔がすっかり曇ってしまっている。
そしてそれ以外に表情と呼べるものは何もない。
憂鬱だとか諦めだとか、
会社員たるものはっきり顔に出してはならない、なんて思いながら。


2人で駅まで歩いて行って、そこで別れるか、電車も途中までは一緒で。
会社は別々で、あるいはもしかしたら社内結婚で同じかもしれない。
そして夜になって帰ってきて。
待ち合わせて帰ってくることもあるだろう。
マンションの高いところから東京の夜景が目に留まる。
ふとした弾みに2人並んで眺めたりもするのか。


帰り道に僕はこのマンションの下を通っていくことになる。
明かりがまばらに灯っている。
「ああ、この中にはどれだけの幸福な家族が住んでいるのだろう」といつも思う。
幸福なのだろうと僕は考える、決め付ける。
よそ様の家庭がどんなことで頭を悩ましてるのかなんて、知らない。
それはその人たちが総じて幸福かどうかということとは、あんまり関係がない。


・・・やっかんでる自分を発見するとき、僕はたまらなく寂しい気持ちになる。


そこには勝ち組御用達のスーパーがあって、
勝ち組御用達のこじゃれたオープンカフェがあって・・・
明け方にタクシーで乗り付けてきて、
散歩する人たちは小さなふわっとした犬を連れて。


僕は僕が間違っているのか、どこかで何かを間違っていたのか、よくわからない。
自分が何を求めているのか、突き詰めるとそれすらもよくわからなくなってくる。
ふわっとした犬がほしいわけじゃない。だけど・・・


なんでいつも僕は何をするにも、惨めな思いに囚われているのだろう?
架空のありもしない物事に絡めとられて、勝手に惨めさを感じている。


とにかく、なんかもっと普通のオフィス街で仕事がしたい。