Fragments from「Frozen Beach」

以前書いた短編「Frozen Beach」の完成したバージョンから削除したパーツ。
なぜ消したのか?深い理由はない。特に出来が悪いわけではない。
「ちょっと長いな」と思って、ばっさり削ることにした。ただそれだけ。


久々に読み返してみて、このまま日の目を見ないのももったいないな、と思った。


どうでもいいことだが、
「Frozen Beach」というタイトルはP-MODELの「SCUBA」の中の1曲目から来ている。

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僕ら五人は屋上にいても特に話すことも無く、眼下の風景を眺めているばかりだった。
どこもかしこも雪で覆われ、分厚い雲の下では灰色に見えた。
遠くにそびえるデパートは襲撃され尽くしていた。


僕らは一度だけ連れて行ってもらったことがある。
ひどい有様だった。地下の食品売り場は言うに及ばず、
上の階、婦人服の売り場からペット用品やおもちゃ売り場まで。
わがままな王様が舌なめずりした後のようだった。
真っ暗で空っぽな食品売り場を強力な懐中電灯で照らしながら歩いた。
息苦しさを感じた。
海の底に沈んだ船を探索しているような気分になった。


「リーダー」とされる人はそこの店長だった。
基本的にいい人ではあったが、笑顔の裏に隠した警戒心で身も心もボロボロになっていた。
時々発作が起きるように、誰彼構わずヒステリックに怒鳴り散らした。
ミユキがそのターゲットとなったとき、
カッとなったリョウジはリーダーに掴みかかって殴り倒していた。


僕らは来たときと同じように徒歩で小学校を出た。
リュックサックを背負って。
誰も見送りには来なかった。もともと厄介者だったのだ。
僕らが仲良くなった小さな男の子と女の子、数人。
ヨウコとミユキがバイバイと手を振って、子供たちも振り返す。
男たち三人も手を振った。ぎこちない笑顔で。
すると子供たちの親が現われて、手を引っ張って急いで連れ戻した。
僕らはとぼとぼと言葉もなく歩きだした。
「なあ」とダイスケが足を止めて、僕らに鍵を見せる。
「何それ?」
 出る前に盗んできた、とダイスケは言う。


僕らは作戦を立てた。
曲がり角を曲がって、手頃な家を見つけてそこで夜になるのを待つと、
リョウジとダイスケと三人でこっそり小学校まで戻って、駐車場に忍び込んだ。
夜の見張り番がどっかに行った隙に、白のジープのドアを開けて乗り込む。
それは彼らの所有する、まだ走ることのできた最後の一台だった。
エンジンをかけると、大きな音が辺りに響きわたった。
すぐにも校舎の中で誰かが、「おい!」と叫んだ。
振り向くと懐中電灯の灯りが二つ、サーチライトのように僕らを照らしていた。
中からダイスケに後ろのドアを開けてもらうと僕はジープに飛び乗った。
リョウジがアクセルを踏んだ。
誰かが飛び出してきて、今にも追いつきそうになった。
僕はドアを閉めた。
振り切って、小学校の門を潜り抜けた。
雪が積もっていてたいしたスピードは出せない。
小学校からは何人もの男たちが走り出てきた。
「チクショウ」とリョウジが叫ぶ。
曲がり角でクラクションを鳴らした。
ヨウコとミユキが家の陰から現われる。
僕はとっさに両腕で×印を作った。


車はそのまま走り去る。
二人は家の中に駆け戻った。
男たちが曲がり角に差し掛かる。
ヨウコとミユキが見つかるんじゃないかとハラハラしたが、
彼らはそこで諦めたみたいだった。引き返した。


そのままずっと遠くまで僕らは走っていった。
ここでいいだろう、というところまで来るとそこで三人で一晩明かした。
二人が眠って、一人が見張りに立って。交代で。


明け方になって僕とダイスケとで歩いて引き返して、
何キロもの道のりを誰にも見つからないように気をつけながら時間をかけて歩いて、
ヨウコとミユキの隠れている家まで戻った。
二人はずっと、僕らの来るのを待って、待ちくたびれていた。
ヨウコは腹を立てていて、ダイスケに蹴りを入れた。
「もう来てくれないかと思った」
「ごめんごめん」
僕らは小声で再会を喜んだ。
そしてまた四人で何時間もかけて車まで戻った。
途中彼らの偵察隊の声が聞こえたような気がして、物陰に隠れた。
そういうのを何度か繰り返して、ようやく白のジープのところまで辿り着いた。


僕らは手に入れた車で新しい旅を始めた。
そして今に至る。


その後僕らは目的地が必要だということになって、
ダイスケが子供の頃に訪れたことがあるという岬の上の灯台を目指すことにした。
何度も何度も迷いながら、ガソリンを探しながら、何週間もかかった。
見つかるとそこは急な坂道の上にあって、僕らは車を降りて歩き出した。
少しずつ少しずつ登っていった果てに、真っ白な灯台の姿が見えた。
吹きすさぶ風を耐え忍ぶかのように、無言で聳え立っていた。


中に入ることはできなかった。
僕らは壁を叩いた。
曇った分厚い窓ガラスの中を覗きこんだ。
(真っ暗で何も見えなかった)
僕らは誰が現像してくれるわけでもないのに、
ダイスケが持っていた一眼レフで記念撮影をした。
五人並んで。オートタイマーで。Vサインなんかして。
例えば、そういうこと。


そして、今に至る。