アメリアの見た夢はとてつもなく大きかった。
他の人の夢がすっぽりとおさまった。
アメリアの見る夢は毎日、どんどん大きくなって、
どんどんいろんな人の夢を包み込んでいった。
ある日、アメリアは自分の夢の中を歩いてみた。
「あ、これはヘンリーおじさんの夢だな」
アメリアはすぐにも分かった。
ほんとなら、ヘンリーおじさんは隣の部屋で眠っている。
アメリアはヘンリーおじさんの夢の中に入っていって、
奇妙な感じにクルクルとしてる町の中を歩いた。
ヘンリーおじさんは眩しいぐらいにカラフルな夢を見た、
だから町の全てが華やかな色合いだった。
ヘンリーおじさんは犬好きだったので、そこら中に犬がいた。賑やかに吠えていた。
アメリアは目にするものに時々手を触れてみたりした。
街灯からぶら下がっているブドウを見つけると一房もぎとって、ベンチに座って食べた。
食べ終わると街灯もブドウも消えてしまって、また歩き出した。
するとそこへ、通りの先から、ヘンリーおじさんの夢の中のアメリアがやってきた。
着ている服も背丈も顔つきもまるで違うのに、アメリアにはアメリアだと分かった。
2人は立ち止まって、挨拶を交わした。
「こんにちは、アメリア」
「アメリア、こんにちは」
その瞬間、アメリアは入れ替わって、アメリアはヘンリーおじさんのアメリアになった。
さっきまでアメリアだったアメリアはいつの間にかいなくなっていた。
町外れで小さな男の子が泣いていた。
アメリアが声をかけると、男の子はアメリアにしがみついた。
「僕、僕の夢の中に帰りたいんだけど、迷子になったんだ」
(ここはまだ、ヘンリーおじさんの夢の中よ)「名前は?」
「僕、ヘンリー」
アメリアは気付いた。
ヘンリーおじさんは今、自分がまだ小さかった頃のことを夢に見ていて、
そのことに戸惑っているのだ。
アメリは男の子の手を取って、「行きましょう」と歩き出した。
2人が歩くと町が広がっていく、ヘンリーおじさんの夢がその部分だけ伸び広がっていく。
アメリアは男の子にいろんなお話を聞かせてあげた。
空を飛んだ小熊のこと。サーカスで見た白い馬のこと。
男の子は目を輝かせながらアメリアの話に聞き入った。
「そうだ、僕、もう行かなくっちゃ」
男の子は手を振ると駆け出した。
そしてヘンリーおじさんの夢がふわっと消えてしまった。
そこは一瞬にして、アメリアの夢の世界が取って代わった。
いつもの、アメリアの夢。
アメリアはアメリアの町に戻って、自分の家に帰った。
アメリアは階段を上って、2階の自分の部屋のドアを開ける。
ベッドの中に入った。
アメリアは眠ろうとした。
そこで、目が覚めた。
部屋の中には朝日が差し込んでいた。
アメリアは階段を下りて、外に出た。
ヘンリーおじさんのガレージで、ヘンリーおじさんが車の修理をしていた。
スパナを手にしたまま、ヘンリーおじさんが車の下から這い出てきた。
ヘンリーおじさんの顔は油で黒く汚れていた。
それでも構わずに、ヘンリーおじさんは笑顔を浮かべた。
「アメリア、おはよう」
アメリアもヘンリーおじさんに「おはよう」と返した。
「不思議な夢を見たよ」ヘンリーおじさんは言った。
「アメリアが出てきたんだ。私は小さな子供に戻っていて、迷子になった。
そこにアメリアが現われて私の手を引いて、サーカスの熊のこととか話してくれたんだ」
ヘンリーおじさんはスパナをその辺に置いた。
「朝ごはんを食べないか」
アメリアは頷くと、ヘンリーおじさんの後をついていった。
そして家の中に入っていった。
アメリアの住む町を朝日が照らしていた。
1日はまだ始まったばかりで、鳥たちがあちこちでさえずっていた。
アメリアの住む世界が、そこに存在していた。