悪夢 その2

続き。


夜、食後、メインイベントの「ディスカバラリー」ってのが行われる。ま、いわゆるウォークラリー。
果てしなく当てにならない、イメージだけで描かれた落とし穴だらけの地図を頼りに、
AからFまでのチェックポイントを回ってゴールを目指す。
体力に自信のある人は走って、そうじゃない人は歩いて。
2日間のほとんどがグループワークだったのが、ここだけは純然たる個人競技。3位までは商品が出る。
事件を起こして1人きりポツンとしていた僕は、とにかく突破口が必要になって、俄然やる気を出す。


2分おきに1人ずつスタートする。
最初の「A」まではみんなで固まりになって迷いながらチェックポイントを探して、
「B」から「C」に進む頃には早足の僕はけっこう順位を上げていて。
地図の見方のコツが分かってミスディレクションに引っかからなくなると、走り出す。
「C」で勝負に出て、一番の難所だとされた「D」を何の迷いも無く走り抜けて、「E」も駆け抜けて。
「E」で僕の前に通過した人は1人だけになって、「F」に入ったときにはその間隔も詰めて。
2分おきの時間差の累積を差し引いたら僕がトップとなった。
これ、もしかしたら1位になるんじゃないの?
行ける。絶対行ける。
そう思いながら「F」の途中まで来る。ここまでは順調だ。
が、最後の最後でトラップにはまる。
同じところをグルグルと2回回って「おかしい」と。
ここで大きくロスして、ゴールしたら到着順で3番目だった。
どっちかというと「A」でロスしてたのが響いて、総合順位で6位。
賞品のJCBギフトカードはもらえなかったものの、「D」→「E」では区間賞を獲得。


久々に、会社関係のイベントで燃えた。本気出した。
総合タイムは1時間39分で、トップは1時間24分。
「A」と「F」以外はほぼ完璧だったのになあ・・・
あれこれと悔やまれる。
これまでの歴代トップは1時間7分なのだそうな。同期だった。
僕のタイムも社内ではけっこういい方なんじゃないかな。
前日の組では誰も2時間切らなかったみたいだし。


夜間なので懐中電灯を持って移動する。遠くから見てるとその明かりがちらつく。
意地悪くも、「D」→「E」で僕の後方何人かが豪快に道を間違える。
(特別参加の事業部長が先頭切って進んで行ったらしい)
「あ、迷ってる迷ってる」「こっちの道に気付くな!」と思いながら走る。
あれは爽快だったなあ。
最初のうちはチェックポイントを見つけられなかった人に「引き返すとありますよ」って教えてたのが
後半からはすれ違っても何も言わない。
特に、向こうが道に迷っててこっちが正しい道を見つけた場合には、その人が視界から消えるとダッシュして。
ほんと、意地が悪いね。


夏に走ると、このコースは田んぼの中を蛍が舞っているという。


到着して、みな、足腰に来て
エアーサロンパスをかけたり湿布を貼ったり辛そうにしてたところを、僕はなぜか平然としてて。
なんでだろ。次の日、筋肉痛にもならなかった。
普段歩いてるからかなあ。


缶ビールをみんなで飲んで、その日は終了。
人によっては集まって3時まで飲んでたみたいだけど、
僕は次の日午後から普通に仕事に戻るつもりだったからシャワーを浴びてすぐ寝た。


次の日の朝。
自然の中だったからか、駐車場にネズミの死骸が転がっていた。
喉元から血を流して、仰向けになって。
どんな動物に、やられたのだろう。


午前中のワークがあって、どうにかやり過ごして、そんなこんなで帰ってくる。
京葉線に乗って東京へ。
コテージで同室だったO君と一緒だったんだけど、
音楽に詳しいってことに帰りの電車の中でようやく知る。
最初のうちは当たり障りのない話を手探りでしてたんだけど、そこから先は話題が尽きなく。
あれこれ面白いことが聞けた。
千葉の工業地帯は空が晴れていて、コンビナートからの煙がまっすぐにのびていく。
日差しの温かさに「昼寝日和だね」って言い合った。


窓の向こうの青空。
とにかく僕はこの会社を辞める以外に選択肢はないのだなあと思った。
決定的になった。
みんなの見てる前で僕は「こんなの耐えられない」「付き合いきれない」と言い放った。
事業部長とか、いろんな人がいる前で。


電車に乗って、僕は東京へと運ばれていく。
O君と音楽の話をする。
これから先、どうなっていくのだろうと思う。
青空。
日々は続く。