甲子園に行く(後編)

試合が終わって、席がいくつか空いて、もっと見やすい場所に移る。
それでもやはり、柱の陰。
まあいいかと思う。柱の周囲だと目の前に客席がないんで足が伸ばせていいんですね。


観客席を見回してみる。中央自由席はほぼ満席。
一塁側と三塁側がポツリポツリと空いていて、外野席はかなり空席が目立った。


開星と箕島の選手たちがグラウンドに出てきて、交互に7分ずつノックを行う。
応援団の吹奏楽部がゆっくりと一音一音を長く伸ばして音程を合わせる。
その音を聞くとなぜか崇高な気持ちになる。
今から始まるぞ、というムードが高まる。


開星は優勝候補の筆頭に挙げられていた慶応を初戦で破っている。
箕島はどっかで聞いた名前だなあと、
記念に買ったサンデー毎日の別冊の大会公式ガイドブックを見てみたら
「史上3校目の春夏連覇校を果たす」とあった。
1979年のこと。そこから18年ぶりに、甲子園に戻ってきた。
古豪復活っていいよね。
これは面白い試合になるんじゃないかと思う。


ノックが終わって、グラウンド整備。
白線が引かれ、ホースで水が撒かれる。
高校生なのだろうか、5・6人が等間隔に立ってホースを支える。
先頭の子が水を撒く。あれは気持ちよさそうだ。
ピッチャーの立つマウンドのすぐ後ろに穴が開いていて、そこからホースが伸びている。
知らなかった。こういう仕組みになっていたのか。
放水が終わるときれいにホースを折りたたんで、穴が閉じられる。
土がかぶせられて、見分けがつかなくなる。


「ビールいかがっすかあ」と売り子が観客席の間を回っている。
ホットコーヒーや熱燗を売っている子もいる。
東京ドームや神宮で見かける売り子たちが大学生のバイトっぽいのに対し、
働いている子たちが妙に幼い。
高校野球だから売り子たちも高校生なのかも、と思う。
いや、絶対高校生だよ。


11時15分、試合開始。サイレンが鳴る。
テレビで試合を見るたびに聞いていた、あの「ウ〜〜〜〜」っていうサイレン。
生で聞くととてもいいもんだ。ワクワクして、ゾクゾクした。
箕島高校ブラスバンドが「ポパイ」のテーマを演奏する。
ああ、これぞ高校野球


1回表:
先頭打者ヒット。次の打者はボークで出塁。
ノーアウト1塁・2塁となってバント失敗、3塁で刺される。
続く2人もゴロ(だったか)に三振。


1回裏:
こちらもまた先頭打者がヒット。しかも3ベース。
次の打者がきっちりレフトフライを打ちあげて生還。先制点となる。
続いてセンター前ヒット、ショート強襲のヒット、フォアボールで満塁。
1アウトで次のバッターが三振。
その次のバッターがゴロ、3塁ランナーがホームでタッチアウト。3アウト。


2回表:
送球エラーに盗塁を絡めて、セカンド強襲のヒットで同点。
・・・といった感じ。


  |1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|11|計
――+―――――――――――――――――――――+―
箕島|0|1|0|1|1|0|0|0|0|0|1|4
開星|1|1|0|0|0|1|0|0|0|0|0|3


スコアを見てもらえば分かるんですが、
先制して、追いついて、引き離して、再度追いついて今度は逆転して、
追いついて、という展開。どれも1点ずつというのがニクイ。
行き詰るシーソーゲームのようでいて、でも、両チームともエラーが3つぐらいあったのかな。
点の入るきっかけがエラーだったというのが何回かあって、そこはちょっとゆるかった。
初めて甲子園で生で見たから「いい試合だった」と思うけど、
テレビで見てたら「まあ普通の試合かな」で終わったかも。


前半戦で打ち合って、後半の回は淡々として。9回・10回はあっさりと流れて、
11回、僕がトイレに行ってる間に点が入ってそれが決勝点となる。


ここ数日冬がぶり返したようで、とにかく球場が寒かった。
1回表から売り子を捕まえて熱燗を飲んで、次は焼酎お湯割り。
5回の裏かな。目の前を通り過ぎる人たちの多くがカレーの容器を持って歩いているので、
これって名物なんだろうなと買いに行く。
店の看板にはその名も「甲子園カレー」行列になっている。しばらくの間並ぶ。
(店員の女の子が行列整理にてんてこ舞いで、段取り悪くて、同世代の客の子たちに
 「うちら抜かされたで」「どうなってんねん」「気分悪い他いこか」
 とわざと聞こえるように言われていたのがかわいそうだった)
「国産牛の甲子園カレー」750円ってのにする。
レジの子が「和牛一丁!」と奥の子に言う。皆高校生のバイトっぽかった。
普通の甲子園カレーってのもあって500円。甘口、中辛、辛口がある。
トッピングはとんかつにチーズなど。
席に戻って食べる。うーん。レトルトのカレーかな・・・


寒さに耐え切れず、さらにまた熱燗を頼んで、ホットコーヒーを飲んで。
ブラスバンドが定番の曲を演奏するのを聴く。「ランナー」とかね。
Judy and Mary だよね、あれ。でもなんだったかなあ」なんて思いながら時間は過ぎていく。
グラウンドの球児たち。スタンドで熱燗を飲みながら「狙いうち」を聞いていると
「ああ、日本に生まれ育ってよかった」としみじみ思った。


試合の終わる頃には、外野席も満員。
次に出てくるのがPL学園だからか。
僕は新幹線の時間があるので球場を後にする。


次はやっぱり夏の甲子園を見たいよね。
真夏の日差しの下、「かち割り」を飲みながら。