『シッコ』

今、マイケル・ムーア監督の最新作『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』も上映されてますが。
なんだかすっかり過去の人になってしまったように思う。
ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)で脚光を浴びて
著書『アホでマヌケなアメリカ白人』(2002年)が
一部の目利きから面白いとされて日本でもいつのまにかベストセラー、
華氏911』(2004年)でカンヌのパルムドール
この頃、時の人で飛ぶ鳥を落とす勢いであった。
ただし、ここまで。


ブームも終わって出てきたのが、2007年の『シッコ』
今度の敵はアメリカの医療保険制度と聞いて、
恐らくこの国の多くのマイケル・ムーア・ファンは思ったはず。
「なんでそんな地味なテーマなの・・・?」
アメリカではとても大きな敵足りえるんだろうけど、日本ではなじみが薄い。
かつ、日本で同じような芸風のドキュメンタリー作家が現れたとしても
日本の医療保険制度をテーマにあげることはないだろう。
負担額が多いかどうかってとこに終始しそうだし。
それよりは地域医療の在り方なんかが興味深いテーマとなる。
つまり、保険ではなく、医療そのもの。
『シッコ』のテーマが全然ピンとこない。
敵はブッシュだ!となるとシンボルがはっきりしていて分かりやすかったんだろうけど。
恐らく、ヒットしなかっただろうな。
僕自身、劇場で見なかった。


面白いかどうかで言ったら、僕としてはこれ面白かった。
華氏911』より好き。
前半はひたすらアメリカの歪んだ医療保険制度の犠牲者ばかりが登場する。
日本でもよく紹介された有名なエピソード、中指と薬指を切断してしまい、
接合手術に何百万もかかるから、結婚指輪をはめる薬指だけを手術することにした、などなど。
静かな語り口でマイケル・ムーアは淡々としたナレーションのみ。
ああ、こういうのもいいなあと思う。大人になったな、と。
(しかし、結局後半からあの巨漢が登場する)


アメリカの医療保険制度って歪んでないか!?ってことで
例によってお隣カナダに行って、イギリス、フランス、そして最後はキューバに乗り込む。
ここに書くことはできないけど、キューバのパートは感動的ですらある。


マイケル・ムーアが集めて、提示した情報はいつものごとくかなりバイアスがかかっていると思う。
今回は特にそれを感じた。
それを映画のフィクションとして捉えるか、あくまでマイケル・ムーアの傲慢さと捉えるか。
前者ならば好意的ではあるけど、
アメリカの医療保険制度の犠牲者ってのも誇張されてるんだろうと思ってそれっきりになる。
難しいラインの話だ。


皆尻込みするような場所への突撃レポというのが芸風として確立され、認知され、
そこから先は矛先は変われど、その繰り返しとなる。
キャピタリズム』もそうなんだろうな。
マイケル・ムーアとしての面白さはあるけど、映画としての面白さはない。
今回もまた、僕は劇場で見ないで終わるか。