『イースタン・プロミス』『バカのハコ船』『ディープ・スロート』

イースタン・プロミス


デヴィッド・クローネンバーグ監督の目下最新作(2007年)。
ナオミ・ワッツ扮する主人公がふとしたことからロンドンのロシア系マフィアと接点を持つようになる。
豊かな生活を夢見てロシアの片田舎から出てきた14歳の少女が麻薬中毒の売春婦となり、妊娠。
産婦人科の看護婦であるナオミ・ワッツは少女が出産を前にして病院に運び込まれたところで出会い、
少女は生まれたばかりの女の子を残して死亡。
少女は日々の出来事を小さな日記帳にロシア語で記し、
そこにはマフィアの親分とその息子の非道な振る舞いが記されていた。
日記を所持していたナオミ・ワッツの立場が危うくなる・・・
マフィアの下っ端の運転手からのし上がっていくロシア人の用心棒役にヴィゴ・モーテンセン
無口で無愛想で得体の知れない存在であるが、ナオミ・ワッツには心を開く。
その彼には実は意外な秘密があって・・・
というサスペンス映画。


面白かった。
デビッド・クローネンバーグ監督の作品にしては脚本に綻びが少ない。
(その綻びや、いつもどこかにぽっかりと空いている物足りなさがこの監督の魅力でもあるんだけど)


ヴィゴ・モーテンセン
クローネンバーグ監督の前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に引き続いて主演を務める。
相性がいいと思う。
この1月・2月に『ロード・オブ・ザ・リング』三部作をまとめて見て、
アラゴルンという主役級の大役を務めたヴィゴ・モーテンセンの世間一般的な魅力の何たるかを知る。
アラゴルンもいいけどやっぱファンタジーなんですよね。「いい人」で終わってしまう。
この『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』の方が
役者としての、男としてのカッコよさを伝えていると思う。


デヴィッド・クローネンバーグということで近年忘れられないエピソードは
審査員長を務めた1999年のカンヌでダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』をパルムドールに推したこと。
冷徹な雰囲気ということで通じそうだが、実は全然作風が違う。
この当時ダルデンヌ兄弟の名前はそれほど有名ではなかった。
当時、ふーむ、と思った。
この話から僕はデヴィッド・クローネンバーグの奥深さを感じ取った。

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『バカのハコ船』


『リンダ・リンダ・リンダ』『その男狂棒に突き』に続いて、山下敦弘監督の作品を観る。
やはりこれも面白かった。


「あかじる」という怪しげな健康飲料を売る若いカップル。
東京で食い詰めて田舎に逃げてくるが、やはりそんなの売れるわけがなく。
主人公の高校の同級生や中学時代の恋人が出てきて、だらだらとした日常が描かれる。


これといって大したことは起きず、事件未満の事件ばかりで終始緩んだ空気が流れているのに、
なぜか細やかな緊張感が途切れないんですね。
次に何が起きるのかわかんなくて、それが心地よいわからなさで、つい見入ってしまう。
予想通りの展開ばかりのはずなのに、絶えずいい意味で期待を裏切っていく。
なんつうかそれぞれのシーンの物語上の位置付けとして
スタートとゴールはそれなりのところなのに、途中のコースが余りにも変化球というか。


主人公のダメっぷりさを中心に物事が進んでいくんだけど、このダメさ加減が素晴らしい。
かゆい所に手が届く00年代的ダメさ。
周りの人間たちも類型的でありがちなキャラクターなんだけど、中々他の人には真似できないと思う。
やはりこの監督は人間をよく観察している。そしてその特徴をつかんで提示するのがうまい。


赤犬が手掛けたサントラもよかった。

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ディープ・スロート


1972年の伝説的なポルノ映画。
でも、今にして思えば何がどう伝説的なのだろう?
その後ディープ・スロートと呼ぶようになった行為を初めて正面きって描いたからだろうか?
それまで×××だった女性が喉の奥に×××××があることを知って、・・・という。


2010年の今見ると、取り立てて面白いものではない。
この程度のやらしさなら、ネットにいくらでも転がっている。
何かエポックメイキングというか初めてのものがあったんだろうけど、
こういうのって「××発祥の店」と一緒で、だからうまいってもんでもない。
銀座のカツカレー発祥の店とかさ。単なる歴史に過ぎない。


安っぽい行為、安っぽい音楽、安っぽい色彩、安っぽい野心。
強いて言えば70年代アメリカの大らかなユーモアか。