百景社『銀河鉄道の夜』

百景社が東京公演だというので久しぶりに見に行った。
銀河鉄道の夜』をこまばアゴラ劇場にて。
http://www.hyakkeisya.org/info.html


相変わらずの大胆な換骨奪胎ぶりで
これはもはや僕たちの育ってきた宮沢賢治ではないし、
だけどそれゆえにこれこそが現代の宮沢賢治なのだというか。
僕がこれまでイヨネスコの『椅子』や太宰の『斜陽』などいくつか見てきた中では
最もストレートに「感動」を求めた作品であって、
僕も妻もラストで描かれた情景にほんのり涙ぐんでしまった。


(例によって豊富なアイデアとイマジネーションが詰め込まれているので
 何を話してもネタバラになってしまう。
 なるほど、こんなふうにしてジョバンニとカムパネルラは旅に出て、
 銀河鉄道は宇宙を走り出すのか、とか。
 小道具・大道具をどんどん動かして新しい意味、舞台空間を作り出していく)


やっぱこの劇団というか演出は
言葉によって説明するものと
具現化した物や役者の動きで表すもののバランスがいいというか
具体と抽象の噛み合わせがいいですね。
セリフの多くは『銀河鉄道の夜』から取っているのだろうけど
ト書きの部分はどこまでも自由に広げて、
銀河鉄道の夜』を演じつつも
この時代に『銀河鉄道の夜』を演じることの意味も同時に問いかけている。


数年ぶりに見てうれしかったのは
客演を迎えつつ、最初に見たときからの俳優の方たちがほぼ皆揃っていたこと。
実際はどうなのかわからないけど
ひとつのチームとして演劇というものに取り組み続けて成長していく。
だからこそ百景社は見応えがあるのだなと思う。


この『銀河鉄道の夜』は2年前に初演。
今回再演するにあたってまたかなり形が変わったという。
今年は2月に大船渡、5月に本拠地土浦のアトリエ、
7月に金沢の21世紀美術館、10月に長野で公演する。
場所が変われば、ステージの広さや奥行きが変われば、
形作られる空間も大きく変わっていく。
こまばアゴラ劇場という東京の小さな劇場で見ると、確かにそんな匂いがした。
震災から6年目の被災地のホールや地方のモダンな美術館では
また全然反射するものが違ってくるだろう。
土浦ではもっと素の何かが剥きだしになって足元を確かめるか、
それとももっと実験的になるか。
それぞれ見てみたい。