難しいケース

月に一度の経過観察で有給。
病院が終わった後、新宿に出て mont-bell で通勤用の肩掛け鞄を買ったり、
ブックファーストで物語講座のリアルで必要な本を探したり、
DiskUnionで安い中古CDがないか探したりした後で
新宿三丁目の駅を出た地上で妻と落ち合って昼を食べた。タイ料理の店だった。


食べ終えて妻は職場へ。僕は新宿駅方面へ。
袖口をちゃんとボタンで留めなかったのでスープの中に袖を浸してしまった。
後でクリーニング屋に持っていくけど、
まずは伊勢丹のトイレでざっと洗っておこうと中に入る。
一階は化粧品売り場。ものすごく賑わっていた。歩くのもままならないぐらい。
各ブランドのブースに付いた黒い服を着た大勢の女性がカウンターでメイクをほどこしている。
よく見たら、そのほとんどがアジア系の観光客だった。
メイクを終えた若い女性たちが見知らぬ言葉ではしゃいでいる。
その頬も目元も極端なくらいに強調されていた。
これから何かのイベントがあって、その仮装行列に参加するのだと言わんばかりに。
奥の方に進むとブースはガラガラで誰も座っていない。
そうか、このブランドがどうこうではなく、玄関に近いところに群がっていただけなのだな。
彼女たちは無料の観光スポットを利用しただけ。なんの罪もない。
伊勢丹って偉いなと思った。
これが再来年の東京オリンピックを前にした「お・も・て・な・し」の現実なのだろう。


先日の出来事を思い出した。
夜、帰り道、妻と地下鉄に乗っていた。
タイミングがよく、割と早く座ることができた。
ターミナルの駅で大勢下りていった。
空いた席にアジア系の若い親子連れの観光客とその友人が座った。
親子連れは乳児を乗せたベビーカーを車両の通路を押してきて空いている席に座った。
母親と思われる若い女性は鞄の中から除菌スプレーを取り出して
子どもの周り、あちこちにシュッシュと振りかけた。
その隣に座っていた、酒を飲んだのか顔の赤くなった初老の会社員が注意した。
向かいに座っていた僕らには聞こえるぐらいの小声で。
しかし若い女性は一瞬振り向いたぐらいで、言葉が分からないからか肩をすくめただけ。
反対側に座っていた若い男性は父親なのかベビーカーを片手で押さえていて、
もう片方の手でずっとスマホをいじっている。彼は顔を上げることすらなかった。
初老の男性はそもそもベビーカーを車両の真ん中に持ちこむのはマナー違反だ、
入口の方に持っていってほしいと主張する。
夫婦の友人と思われる若い女性だけが日本が分かるのか、何度か頭を下げて謝る。
しかし夫婦は何も聞いていない。
初老の男性の口調が激しくなる。
最後にはこの車両から出て行け、と。
誰が悪いのか。男性が「お・も・て・な・し」できてなくて
寛容の精神、異文化を許容する精神に乏しいという話なのか。
「ここは日本なのだから日本人のマナーに準じてくれ」という要望は間違っているのか。


これから先、こういう問題が増えてくるのだろう。
僕ら夫婦はただその状況を見ているだけ。何もできない。
乗り換えの駅に着いて車両の外に出て、ホームを歩いた。
エスカレーターに乗って、誰が悪いのだろうと話すだけ。


築地市場が営業を終えてそれでも営業し続ける店があって、封鎖に抵抗する勢力があって、
そして先日取り壊しが始まった。
誰が悪いのか、何をどうするべきだったのか、もはやよくわからない。
それぞれの立場、それぞれの主張があるだけで、無条件の悪も無条件の善も存在しない。
割り切れないことばかりが増えていく。
皆、自分が主張したいことを主張するだけ。