温室の読書室「旅の空へ」


昨日の続き。日曜はその後、『温室の読書室「旅の空へ」』
編集学校で出会った塚田さんが企画している。
http://openers.jp/interior_exterior/yuichi_tsukada/index.html


こじんまりとしたビルの屋上の「温室」(かつて本当に使われていた)にて、
こちらもまた目利きがテーマに沿って本を選んで、自由に読むというもの。
昨年の夏にも参加して、僕は2回目。
今回のテーマは「旅の空へ」ということで
カーニバル評論家:白根さんによるラテンアメリカ
旅行会社「ワイルド・ナビゲーション」の宮田さんによるアラスカ・シベリアが
中心となったラインナップとなっていた。
http://www.wild-navi.co.jp/2012/03/06/news19-readingroom/


温室には古びた地球儀とアラスカの巨大な地図、
塚田さんの活けた花とペルーの小さな人形たち。


こういった本を手に取った。


・『みるなのくら』昔話の絵本。
 山奥で道に迷った男が大きな屋敷を見つけて中に入ると
 一人きりそこで暮らしていた美しい女からもてなしを受ける。
 あくる日、女は用があって屋敷を留守にする。
 そのとき、12の蔵のうち11番目までは見てもいいが12番目は見てはいけないと。
 もちろん男は見て回る。最初の蔵は1月の正月だった。
 端午の節句があり、夏祭りがありと来て12番目を開けると…
 全てが消えてなくなっている。
 12が13になったりバリエーションはありつつ各地に伝わる話。
 たまたま土日に読んだ新聞の山の中でこの話が出てきたので読んでみた。


NHKのドキュメンタリー「北極圏 」のシリーズをムックにしたもの。
 その2巻と3巻。
 2巻の前半。北極圏のマガダン港、そのコリマ街道沿いの町
 (シネゴーリエやススマンなど)はマイナス60度の寒さ。
 そこに暮らす人々。発電所の建設や採鉱であるとか。
 取材班はラーゲリを生き延びた老人に会って話を聞き、ラーゲリの跡を探す。
 「村があるところには金があり、金があるところにはラーゲリがある」
 2巻の後半はマンモス。
 3巻の前半はシベリア最古の民ユカギール。アジア・モンゴル系の顔立ち。
 混血が進んでその純血を保つのは20人のみ。ヨーロッパ系になりつつある。
 放映された1980年代後半の数字なので、今ではもっと少ないのだと思う。
 後半はレナ川下り。


星野道夫の写真集『アラスカ』
 これは素晴らしい写真集だった。オーロラの情景も素晴らしいけど…
 氷河に閉じ込められたクジラの頭部が鉱物的な存在感を放つ。
 原油流出事故で死にかけたラッコが声にならない叫び声を搾り出す。
 カリブーの母親が地面に置かれた胎盤を口で加え、引っ張り上げている。


・『地球遺産 最後の巨樹』
 今回一番の出会い。その名の通り、全世界の巨樹を追いかけた写真集。
 マダガスカルバオバブヨセミテ国立公園のレッドウッド。
 世界で最も高い木は「シャーマン将軍」樹高83.82m 幹回り25.3m 樹齢約2700年
 世界で最も古い木はカリフォルニア州東部の「メスーゼラ」
 (ブリッスルコーン・パイン) 4768年(2002年時点)
 青森の木も紹介されていて、
 「北金ヶ沢イチョウ」幹回り18.8m 樹高30.0m 推定樹齢1000年
 「十二本ヤス」(金木町)ヒバ 幹回り7.23m 樹高33.46m 推定樹齢500年


ロバート・フランクによる写真集『Peru』(1948年撮影)
キューバ革命の報道写真を集めたもの。洋書。カストロゲバラなど。
・Martin Chambiというペルーのインディオの写真家による写真集。
 タイトルは「1920-1950」だったか。こちらも洋書。日本では手に入らないか。
 戦前の素朴な民衆の姿を撮影する。生涯に写真なんて1枚撮られるかどうか。
 兵隊たちや農民たち、結婚式や教会や学校に集まった人たち。集合写真が多い。
 同胞ゆえに身構えず自然な表情を浮かべている。
 単なる記録として価値あるだけではなく、構図が毅然としていて美しい。
 マチュピチュも撮影している。
 白木さんに聞いた話では上野の美術館にて開催されている「インカ帝国展」にて
 Martin Chambiの写真を6点引き伸ばしたものが展示されるという。見に行こう。


来ていた女の子の一人と話す。ペルーの首都リマにある天野美術館にて
1年間住み込みのバイトをしていて、帰ってきたばかりだという。
とある大学で代々続いているようだ。
ペルーで成功した日本人実業家、天野芳太郎がアンデス文明の遺跡から採集した
コレクションが展示されている。日本人も訪れることが多いから学芸員代わりに
日本人の学生を募集しているのだろう。


ペルー、チチカカ湖の辺りの神様を象った小さな人形が置かれていた。
欲しいものをミニチュアにしてその人形に括りつける。
僕が手にした人形には玩具の心臓や食べ物の入った袋が首の周りに結わえられていた。
願い事をするときには煙草を吸わせるのだという。


最後に『ドゴンの宇宙哲学』という分厚い本を紹介される。
レヴィ=ストロースの師匠スジに当たるマルセル・グリオールが
コンゴのドゴン族から聞いた壮大な神話を元に大部の解釈体系を構築したもの。
しかし裏話があって、実はその神話は白人を喜ばせるために
長老が誇張したり改変した創作に近いものであって…


「温室」をあとにして、恵比寿へ。
鶏モツ鍋の店を見つけて入って、飲んで帰ってきた。