パーティー

彼女が明日故郷の星に戻るという日、僕たちはささやかなパーティーを開いた。
この地球での最後の夜。
「地球はどうだった?」
「楽しかった」
「どこが最高に楽しかった?」
「うーん。どこもみんな楽しかったな」
そして彼女は真冬のアラスカで過ごした休暇のことを、
常夏のタヒチをあくまでフィールドワークとして訪れた日々のことを語った。
僕らはグラスを片手に彼女の言葉1つ1つに耳を傾けた。


その当時僕が住んでいた家はとてつもなく広くて、
何かがあるとすぐパーティーを開いたものだった。
酔っ払った女の子が必ずプールに飛び込んだ。
そしてその後を追って何人もの男の子たちがあちこちから飛び込んだ。
笑い声が絶えなかった。
夜が明けるまで僕たちは踊った。


「明日は何時?」
「早いの。9時にはシャトルに乗らなくちゃいけない」
「徹夜で?」
「うん。でも、いいの」
部屋の反対側でいきなり乾杯が始まり、それがこちらまで伝わってきた。
僕は彼女の持っていたワイングラスに自分の持っていたグラスをコツンとぶつけた。
「乾杯」
「何に?」
「君の生まれた星に」
「来たことはある?」
「・・・僕、まだ地球を出たことがないんだ」
ホリー・コールの唄う「Calling You」が部屋の中にそっと流れた。
ピアノとベースだけをバックに唄われる20世紀のスタンダードナンバー。
彼女は音のする方へと体を向けた。
「私、この歌好き。この星で聞いた中では1番かな」


その何年か後に僕も地球を離れることになった。
その後長い月日が流れたが、1度も戻ってはいない。


彼女とは遠くの星系で偶然会ったことがある。
空港のラウンジですれ違った。
彼女にはあの頃の学生っぽい雰囲気はなくなっていた。
僕にしてもそうだ。
「何してるの?」と聞かれて、スーツ姿の僕は答える。
「こんな氷に閉ざされた惑星でヴァカンスってことはないだろ?」
それで君は?
聞くまでもなく、彼女の着ていた制服は準一級航海士のものだった。
子供たちの憧れだ。側を通った小さな男の子が目を輝かせた。


出発までまだお互い時間があったので、近くにあったバーに入った。
あの頃の日々のことを思い出すがままに取り留めなく語った。
「パーティーをしたの、覚えてる?」
「覚えてる。楽しかった」
「君も最後はプールに飛び込んだんだよね」
「そこにいたみんなが一斉にプールに飛び込んだ」
「水面に浮かんでバシャバシャやりながら夜が明けるのを見た」
「ロケットが飛んでいったのよね」
青と灰色の交じり合った空をロケットが横切っていった。
白い飛行機雲がその後に続いた。


パーティーが終わって友人たちが引き上げると、
僕は1人プールサイドの椅子に座って
なんとはなしに転がったグラスやピザの冷め切った残りを眺めた。
静かだった。
僕は目を閉じた。暗闇がそこに広がるのを僕は感じた。
彼女の「さよなら」という声が聞こえて僕はふっと目を開ける。
プールの反対側に荷物を抱えた彼女が立っていて、僕に向かって手を振っていた。
僕は立ち上がる。
そして僕もまた彼女に向かって手を振った。