成田離婚

こういう話を考える。短編。


世の中にはいろいろな事情があるもんで、
お互いの両親を喜ばせたい、あるいは、世間体を保ちたい・取り繕いたい
とかいうような理由で結婚をする男女がいる。
結婚式を終え、そのまま新婚旅行へと向かう。そして帰ってきて離婚。
ある種の成田離婚


(そういえば話は変わって、結婚式・披露宴の次の日に新婚旅行に行った夫婦って
 僕一組しか知らないんだけど、普通どんなもんなんだろうか?)


儀式としてガチガチの式を終え、上辺だけは華やかな披露宴を終えて、
次の日成田まで見送られて海外へ。
一息ついて2人は飛行機の中。
そもそもが、何らかの出会いはあったのに
何もかもが終わってしまった2人なので会話も淡々としたものだ。
全てが事務手続きのよう。雰囲気としてはビジネスの出張に近い。
長いこと同じ会社の同じ部門にいたのに、直接仕事をするのは初めて、というような。
そういう距離感。


異国の地を訪れて、観光。(ツアーではない)
景色を見て、食事をして、風変わりな名産品を買って、ホテルへ。
夫婦ということになっているので、一緒の部屋に泊まる。


1日目、2日目はまだいいが、3日目ともなると雰囲気が徐々に険悪になっていく。
旅行の疲れや、旅先でのトラブルが引き金となって口論するようになる。
お互い、いい年した大人なので派手な喧嘩をやらかすことはない。
しかし、緊張は高まっていく。
一触即発の一歩か二歩手前のまま、全てが進んでいく。
食事を別々に取ろうとしたり、部屋を分けようとしたり。


やがて旅行のハイライトへ。
ナイアガラの滝とかそういうの。
雄大な風景。人間という存在はいかにちっぽけなものか。
普通の恋人同士ならばそこに同じものを見出して、あるいは見出そうとして、
それを共有するはずなのに、2人はその壮大な景色を前に何も共有するものはない。
もしかしたら、その景色を前にして素直に、素朴に、同じことを思ったかもしれない。
だけど口に出すことはないまま。
他のどうでもいいことは言い合うのに、
「敵」を前にすると、人間、そういう無防備なことは決して口にしないものである。


何かを分かち合えたかもしれないのに、
そしてそれが何らかのきっかけとなったかもしれないのに、
すれ違って平行線のまま2人は帰途について、成田へ。
その後すぐ、離婚届けを出す。


それだけの話。
どうだろうか?