ツアーでペルー その23(4月24日)

マチュピチュ遺跡


バス乗り場へ。目と鼻の先に薬局があって、
「頭痛のする人はここで買うといいですよ」と添乗員のKさんが言う。
ツアーの人たちが押し寄せてごった返す。急に大賑わい。
ここではスナック菓子やミネラルウォーターも売られていた。


バスが2台並んでいる。1台目のバスに白人旅行者たちが乗り込んで、出発する。
別の団体が次のバスに乗り込む。
坂の上の方からバスが下りてくる。
マチュピチュまでのシャトルバスってとこか。
こんなふうになってるとは思いもしなかった。手軽にマチュピチュまで行けてしまう。
だからツアーに組み込んで訪問することも可能なのか・・・
山道を何時間もかけて踏破した末に目の前に広がる、というものではない。
素直な感想として、
「この時代はお金と時間さえあればどこだって行けちゃうんだねえ」
マチュピチュだろうとチチカカ湖だろうとナスカの地上絵だろうと
どこもかしこも完全に観光地化されて、あとはお膳立てされた場所をのん気に回るだけ。
逆に言うならば
「一介のサラリーマンが一週間の休みで行けるところなんて
 秘境でもなんでもないんだねえ」というか。
でもまあ、行けるならどこでも嬉しいもんだけど。


バスは24・5人乗ればいっぱいになる。何人か次のバスに回る。
非常にきれいなバス。
僕らがリマやクスコで乗ったのもそうだけど、まるで日本の観光バスのよう。
一般市民の乗る汚れたオンボロのバスとは大違いだ。


山道をうねうねと上っていく。
1つの山を徹底的に攻める。
右に行って左に行って急な上り坂をジグザグになってどんどん上っていく。
この山を登りきったところにマチュピチュがあるんだろうな、と思うとワクワクする。
ガードレールの全くないところを上から降りてきたバスとすれ違う。
道は常に崖っぷち。落ちたら即死。
窓の向こうは急角度の山々ばかり。日本のゆったりした山とは違う。
一言で言うならば山が「突き出て」いる。
巨大な緑色のモコモコした塊がニョキニョキと地面から生えて
ググーンと雲を突き破っているような。
「すげー」と思う。月並みだけどそういう言葉しか思いつかない。
アグアス・カリエンテスの町がはるか下、小さくなって見える。
列車がまるでおもちゃのよう。
いや、日本人の目からするとほんと何もかもが現実感なくて、
スケールが狂っているようで、すごすぎて笑っちゃうような風景ばかり。


見とれていると前方にちらっとマチュピチュのあの段々畑が!
「あっ!あれ!」僕は小さな声で叫んで、隣に座っていた人に指差す。
「見えましたよ!」


バスを降りる。
マチュピチュの入口地点。バス乗り場のすぐ横に
具合の悪くなった人を救護するためのテントがあって、日陰ができている。
僕らのツアーで一緒だった人が、気分が悪くなって脱落。
夫婦で参加だったため、2人で残ることになる。


テントのすぐ上に小奇麗な、こじんまりとしたホテルが建っている。
「Macchu Picchu Sanctuary Lodge」
http://machupicchu.orient-express.com/web/omac/omac_a2a_home.jsp
確かにこりゃ聖域だよなあ。
マチュピチュのすぐ目の前にこんなホテルがあるだなんて予想だにしなかった。
高いんだろうなあ。というか予約でいっぱいなんだろうなあ。
死ぬまでに1度は泊まってみたい。
そしてここでマチュピチュの夜明けを見てみたい・・・
(今見たら一番安いスタンダードの部屋で$715)


まずはトイレに。チップは0.5ソル。
いったんマチュピチュの中に入ってしまうと、トイレはない。
荷物を預けるならば4ソル。


レストラン兼カフェのような店が1つあって、
その店先でアンデスの男性が1人で演奏をしている。


トイレの前に空き地があって僕らはそこに集合ということになっていた。
電線の工事をしているのか、
巨大な糸巻きのようなのに太い電線を巻いたものを
ペルー人の男性がひたすら回転させて送り出している。
世界人類が平和でありますように」と
今でも日本でもよく見かける標語の書かれた柱が隅の方に立てられている。
(もちろんこれは日本語)
遺跡の中はブヨが多いと注意されていたので、虫除けを全身に降りかける。
肌が露出している部分だけでなく、服の上からも。
みんなして、日本から持ってきたスプレーを一斉に。
どこかで携帯が鳴っているのが聞こえる。
こんな「秘境」とされる山の上でも、携帯は通じるのだ。


いざ、マチュピチュへ。
ここから現地人のガイドの男性も同行する。


入口で入場券を見せて、先に進んでいく。
石を積み重ねて造った小屋が建っている。
まずはここで写真をたくさん撮る。誰もがそうする。
ガイドのMさんが「みなさん、そろそろ上りましょうか。上は全景が見渡せますよ」と促す。
木々の間、急な山道を上っていく。呼吸を重ねると緑の匂いがする。
5分ほど上っただろうか。
道は木々の外に出て、急な日差しに眩しくなる。


・・・目の前には、そう、これまで写真で何度も見てきたマチュピチュの本物が。
立ち尽くす。
切り立った崖の上は緑色の草で一面覆われ、
石造りの建物跡がパックリと断面図のように広がっている。
そしてその周辺部には段々畑がなだらかに伸びている。
さらにその周りを深い森が覆っている。侵食するかのように覆い尽くしている。
僕にはそれが果てしない千年もの眠りの只中にある、巨大な生き物のように見えた。
建物跡の間をポツリポツリと木が植えられている。その枝葉を存分に伸ばしている。
それはそれで別の生命体のように思えた。


段々畑を果ての方まで行って上の段に上ったり、下の段に下りたり。


夢中になって写真を撮る。どんな角度から撮っても様になる。
カップルや夫婦たちはそれまでの観光スポットでしてきたような
大袈裟なポーズを取ることもなく、ただ遺跡を前にして立つだけとなる。