手術で入院 その4(11/22)

この日はその後ずっと安静。起き上がってはならない。


12時半。看護婦の方が来て、体温と血圧を測る。
37℃近い。いつもの自分よりも高い。
体が傷口を治そうとして体温が上がっているとのこと。
38℃を超えたら状態に異変が起きているということになる。


軽食ならば口にしてよいということで、
クッキー2枚、塩を振ったゆで卵、リンゴジュース。枕元に置いて横になりながら。
昨日からお粥の食事なのだが、不思議とお腹が空いていない。
この食事も待ちに待った、というものではなく、食べなきゃ食べないでもよかった。
ダイエットモードに体が入っている。


抗生物質や痛み止め、便を柔らかくする薬を飲み始める。
食べ終わってお盆を片付けてもらう。
手術着を着替える。
脱いで、布団で下半身を覆い、たくし上げたトランクスとパジャマを足先から腰元へ。
そこから先は自分で引っ張る。大事な箇所は見せないようになっている。
全裸になって赤ん坊のように着せてもらうのではなかった。


『ハーフ・ザ・スカイ』を読んでいたら眠くなる。さらにまた2時間眠る。


目を覚ましたら15時半。
大のほうがしたくなる。が、今したら傷口が広がって大々的に出血しそう。
それが怖くてたまらない。
どうしたもんか…、眠りから覚めて意識がはっきりしてくる。
これは便意ではなくて、手術した箇所が疼いて熱を持っているのだ。
ズキズキと痛む。麻酔が完全に切れたようだ。試すと足の爪先も自由に動く。


ベッドから起き上がることも止められて、落ち着かなく何度も寝返りを打つ。
腰の辺りに特殊な薄い毛布を当てられていて、電気が通ってるわけではないが、
触っているとなんだかポカポカと温かい。腰を冷やさないようにということなのだろう。
それが逆に寝てるとイライラするほどの熱さを…
本を読んでてもいいとはいえ、逆に本を読むか音楽を聴く以外に何もできない。
この日はこの後ずっと、これら痛み・熱さ・退屈との勝負だった。
麻酔をされて痛みの全くなかった手術よりもはるかに辛い。


何が最も困ったかといえばトイレ。行きたくなっても1人で行っちゃいけない。
これにしてくださいと尿器とそのホルダーをベッドの柵に吊り下げられるが、
こういうのって「あ、そうですか」とすぐ使えるようになるわけではない。
試しに寝たまま使ってみる。
シーツの上に置いて、トランクスをずり下ろして取り出して差し込むと、うまい具合にはまる。
そんな角度になっている。よくできているなあと感心する。
しかし、ここに出せと言われてもいきなりは無理。
看護婦の方が次に現れたときにダメだったと伝えると、
車椅子に乗ってトイレまで運ばれる。
これまた生まれて初めての車椅子。短い距離だったが、こんな視線になるのか。
便器を前にすると普通に用が足せる。
終わってナースコールを押す。また部屋まで運んでもらう。
普通に立ち上がって歩けるのになあ、大袈裟だなあと思う。


『サイボーグ・フェミニズム』を読む。
よく言われているように、難解。少しずつしか進まない。
しかし、あれこれ考えさせられる。
発表されたのは1985年。
当時この論文はウィリアム・ギブソン『ニュロマンサー』と対になって語られたという。


夕食。お粥、鯛のおろし煮、菜の花のお浸し、薩摩汁、リンゴ2片、お茶。
ベッドの頭のほうを上げて、台を差し渡してお盆を置く。
食べ終えて片付けてもらい、そのままここで歯を磨く。
胃袋の形をした金属の容器に吐き出す。
すぐ片付けて欲しかったんだけど、しばらく待たされる。
布団の熱さもあってイライラする。この姿勢だと拘束されているようなもの。


手術を担当された医者の方が現れて、説明をする。
2箇所のポリープを切断。小指大で硬くなっていた。
これらポリープは主に切れ痔が原因で発生する。
外来の診察では気付かなかったが、これまでに切れ痔を繰り返していたせいか、
肛門の内側の皮膚がゴワゴワとして狭くなっていたので、
周囲の筋や筋肉を合わせて少し削っておいたとのこと。
当初想定よりも処置した量が多く、
診断としては肛門ポリープから脱肛に改める。
これだと保険会社に請求しても下りるようになるでしょう。
(でも僕は保険に入っていなかったので単価が上がるということは嬉しいことではなかった)
退院は当初予定通り明後日水曜となる。
次の診察の予約を12/10(金)で取ってもらう。
次に薬剤師の方の説明を受ける。


依然としてトイレに悩む。やはり尿器相手だと出ない。
初めてナースコールのボタンを押して、再度車椅子でトイレへ。
毎回毎回これではいけないよなあと、その次からは尿器を試す。
やはりねえ、尿意があるから出せるとかいうものじゃなくて
この尿器というものに対して心を開けないんですね。
この部屋でしていいのか、という。だから怯んで出すことができない。
しかも今後ずっとベッドの上ではなく、今晩だけとなるとなおさら、心を開けない。
そうも言ってられないと3回目に挑戦。
立ち上がって男子小便器に向かうような姿勢になったら出せた。
…精神的なものというより、姿勢だったのか。
この日はその後あと2回、尿器に用を足して看護婦の方に取りに来てもらった。


22時消灯。しかし、昼間寝すぎたので眠れない。
うとうとしては起きる、というのを何度も繰り返す。
2時間眠れては1時間煩悶するというような。
それでもまあ、朝になる。