「タイトル未定」(2.裏返す)

そうよあのひたしかにわたしはだれかと飲みたい気分だった
おとこのひとならばだれでもよかった
こどもたちは部屋のなかをひっきりなしに走りまわっていて
だんなはかってにひとりで飲みはじめているしつまみもつくれという
そんな家にだれかをよびたかったよばずにはいられなかった
facebookでさそいをかけたらあのひとがのってきた


そうよあの日わたしはピザをやいていたはじめてつくった
生地をこねるところからつくってみたオーブンでやいた
アンチョビとオレガノ、ちいさなエビとアスパラガス
駅前にあたらしくできたショッピングモールに寄って
仕事の帰りにわたしはつかれている
だけどなにかをあたらしくつくってみたかった
こどもを迎えにいくのはだんなの番だったから
それぐらいしてもいいとおもった
ドライイーストはあるはず強力粉と薄力粉は買わないといけない
薄力粉はあまったらこんどギョウザをつくろう
ボールにまぜるときにはオリーヴオイルをいれるのがコツだときいた
こねているとこどもたちがよってきてぼくもわたしもやりたいという
こなだらけになるからやらせたくなかったんだけど
その一方であれもだめこれもだめというわたしの両親のようにはしたくなかった
そしたら案の定こなだらけになっておこってしまったきがえさせた


オーヴンでやいているうちに気持ちがまた落ち着いてきて
こどもたちが走りまわってもまあいいかとおもうようになった
そのうちにあのひとがきたこどもたちをつれて
こどもたちがトマトとキュウリのはいったふくろをさしだすこれはうれしい
そうよわたしはむなもとのあいたサマーニットを着ていて
あのひとはみてみぬふりをした
どうしてふつうのおとこの人はもっとだいたんにみることができないのかしら
なかにはいるとあのひとはだんなとのみはじめてどうでもいい話をしていた
買ってきた缶ビールをつぎつぎにあけた
わたしはぽてとさらだなんかをつくってはこぶ
あのひとはこどもたちにピザを食べさせていた
油でよごれた指で家具を触らないかがきになったけど
神経質そうにウェットティッシュで娘の指さきをふいていて
よこめでみてるとそれはそれでなんだかはらがたつ


わたしもくわわってのみはじめた
たのしくもなんともなかった
わたしはいったいなにをしているのだろうとおもった
なにもかもがいやだからとにかくしゃべりつづけた
そうでもしないとふたりして
わたしのきにいらないことばかりしゃべりそうだった
だんながたちあがってトイレかどっかにいって
そのひょうしにはしがころがった
いやそのあいだにどれぐらいかじかんがあって
あのひとはわたしのことをじっとみてた
なにをいうのだろうなにかいえばいいのに
でもなにもいわないなにをかんがえているのだろう?
そしてはしがころがってわたしははにかんではずかしそうにしてみる
いみなんてないそんなことをしてみたかっただけ
うしろをむいてはじらうようにして
あのひとはわたしのことをじっとみてた
なにをいうのだろうなにかいえばいいのに
でもなにもいわないなにをかんがえているのだろう?
そんなことがぐるぐるまわりだしてすこしあせをかいて
キッチンへいくとだんながはいってきて
わたしのむなもとをさわろうとした
わたしはこえにだしていやがった


そしてまたはなしだした缶ビールを飲んだ
ピザがさめてあたためなおした
わたしはなにをしているのだろう
そのうちにこどもたちとあそぶことになってそれはなぜかたのしかった
だけどあのひとが9時になったから帰るといいだして
ねむっていたむすこを起こしてげんかんでくつをはかせた
ドアのむこうにきえていった
わたしはさんだるをはいてそとにでる
あのひとが手をふっているからわたしはその手にハイタッチした
そしてその手をかるくつかんでみたいみなんてない
これからどうなるのだろう
あのひとはどういうことをかんがえるだろう?
ほんのすこしへんな気持ちになって
わたしはあのひとのこどもたちにてをふっていた
あのひとたちがエレベーターのなかにきえた


そうよわたしはテーブルのうえのピザをひとりで片付けた
缶ビールをゴミぶくろにいれた
そうしているうちになみだがでてきた
キッチンでひとりでないた
なきやむとこどもたちをねかしつけた
ビールのにおいのするわたしをこどもたちはいやがった
ソファーでねていただんなをおこしてふとんにおいやった
そしてまた缶ビールをのんだ
こんどはなみだがでてくることはなかった