『もしドラ』

先日小宮山書店で3冊500円の古本で買って会社の机の脇に積んでいた
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』
をなんとはなしに手にとった。
火曜の帰りの地下鉄で読み始めて、木曜の行きの地下鉄には読み終わる。
朝夕の通勤でサラサラと100ページ読めてしまう。
ベストセラーってそういうもんだよなーと思う。
なんかどっかラノベっぽい長めのタイトルとあのアニメっぽい表紙と。
なんだって萌えにできるんだなあ、ってのと
高校野球ドラッカーという異色の組み合わせと。
ベストセラーになったのは一昨年ぐらいかと思いきや、
ブレイクしたのは2010年だったんですね。もう4年も前のこと。
今頃読んでる僕は何なのか。


文体は説明的でもっさりしていて今ひとつ。キャラクターもありきたり。
だけど物語のセオリーを一切はずさないストーリー展開で、それはそれで読めてしまう。
それまでバラバラだった弱小高校の野球部が一致団結して勝ち上がっていく。
既視感だらけなんだけど、むしろその方が楽しく読める。
物語というものが持つ普遍的な力をやはり痛感させられた。
この作者の偉いところはそこで何一つ奇をてらわなかったことである。


出版年が前後するけど、先に読んだ
高橋秀実『「弱くても勝てます」―開成高校野球部のセオリー』がとても良く似ている。
進学校がいかにして甲子園予選を勝ち上がっていくか。
依って立つところが片やドラッカーで、片や監督や選手の自分なりの哲学というだけの違い。
リアルとフィクションの差はもはや問題ではない。
面白いのは両者とも頭の良さを活かして確率論など駆使して緻密な野球を、
というのとは正反対に向かうところ。
9回の裏1死2・3塁で1ストライク2ボール、どこに投げるか? なんてことは考えない。
もちろんバントなんてしない。
ドサクサに紛れてワンチャンスをものにして打ちまくって大量点差で勝つ。
守備は期待しない、練習もしない。エラーが前提。
あとはいかに、ひとつのエラーを引きずって次のエラーを連続させないか。
気持ちを切り替えて自然体でプレーさせるか。
小賢しい戦術など時間の無駄。練習量が少ないからそもそも体がついていかないし。
ということが誰よりも分かっている。


逆に言うと、頭の良し悪しはあんまり関係なくて
強い高校、戦術があれこれ試せる高校というのは
日々の練習をコツコツと積み上げていくことでしか生まれないのだということ。
監督の意図するところを正確に再現しなければならないのだから。
そしてそれは頭で判断していたら遅くて、体が本能的に動かないと成り立たないのだから。
両者奇抜な内容のようでいて、裏を返すと至極当たり前のことを語っている。