「29」台本

今撮っている映画、「29」の台本。
頭の中にしかなかったものを文字に落とすことにした。


岡村の岡村による岡村のための、個人的な映画。
キーワードは「これまでの人生を総括する」

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【Sequence 1:会社】
会社のビルから見える東京タワー。そのクローズアップ。
「僕の働いている会社からは東京タワーが見えた」


人気の無いフロア。自分の机。
「働き出してから5年になる」
「この5年間、いつまで続けるのだろうとずっと思ってきた」

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【Sequence 2:上総湊】
内房線のホーム。電車が入ってくる。
電車は森の中を走っている。視界が急に開けて、目の前に海が広がる。
上総湊の駅に到着する。


砂浜の上を歩く。
空は晴れていて、冬とはいえ暖かい。
「学生時代、僕はこの海辺で何本もの映画を撮影した」


上総湊の海水浴場で撮影している映画から1ショットずつつないでいく。
#1『Today Tomorrow Nextweek』 #2『So It Goes』
#7『東京の上空で会おうぜ』 #8『砂の映画』
#9『on fire』
※画像にエフェクトをかける
<音楽>


冬の砂浜に戻る。
幸福そうな若い夫婦が犬を連れて散歩している。その望遠ショット。

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【Sequence 3:青森】
特急電車のドア付近。分厚いガラス窓は雪で曇っている。
指先でぬぐってもすぐまた白く曇る。
青森駅に到着してホームに降り立つ。外は吹雪だ。
構内を歩き、改札へと向かう。駅舎を出る。


天井のショット。
「2004年1月1日 この日誕生日の僕は29歳になる」


起き上がる。部屋の中が映る。
「僕はこの部屋で少年時代から大学に進学するまでの間を過ごした」


ひっそりとした家の中を進んでいく。
「29歳となった今でも、あの頃と何も変わっていない」
「僕は大人びた少年のままただただ意味も無く年をとってしまった」


吹雪の青森駅前を歩く。港に向かっていく。
青森港は見渡す限り雪で覆われている。風が強く吹いている。
「来年30歳になる」
「僕はこれからの人生をどうしたらいいのだろう?」

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【Sequence 4:上映会】
会場入り。ものすごく広い。客席もステージも。
映写室にて準備をする。音のチェックをする。
受付も準備が整い始めている。
開場となって客席が埋まりだす。
『on fire』主演女優による舞台挨拶。
「去年の夏、会社の人たちと映画を撮った。今日はその上映会となる」
「4年ぶりの作品製作だった。それは興味深い体験だった」


会場が暗くなる。
スクリーンに映像が映し出される。
『on fire』の1シーンを望遠ショットで切り取る。
ジュディは海辺を走り出す。脱衣所へと消えていく。悲鳴をあげる。
ベイオウルフと一緒にニルスの死体を運び出す。
ジュディ取り乱す。泣き出す。セリフ『ねえ、何がどうなってるの?』

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【Sequence 5:ライブ】
暗闇。ピントが徐々に合っていく。
3ピースのバンドが曲の演奏を始める。
「映画を撮ったり、小説を書いたり、ずっとそんなことばかり続けてきた」
「29歳というのは1つの分岐点だと僕は思っている」
「会社員として普通に生きていくか、それとも・・・」


ベースを弾く女の子にクローズアップ。
「例えばこの子は、ついこの間音楽のために会社を辞めた」


女の子と話す。
「最近どう?」といったこと。

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【Sequence 6:追想
大学の映画サークルでの撮影現場の映像をつないでいく。
#4『miu-miu』 #8『砂の映画』
※画像にエフェクトをかける
「あの頃は楽しかった」
「あの頃の楽しい思い出を再現させるためだけに
 僕は今でも映画を撮っているのかもしれない」

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【Sequence 7:披露宴】
大学の友人の披露宴。
「僕が29歳になったということは周りの人たちも同じような年頃となった」
「18歳から20歳という時期に一緒に大学の寮生活を過ごした友人たちは」
「みな普通に働いて、結婚して、子供が生まれて、家を買おうかどうか迷っている」


寮時代の映像をインサート。新郎も披露宴の出席者もみんな若い。
新郎は酒を飲んで前後不覚になり、暴れている。
それを見て周りの連中が笑っている。


披露宴の映像に戻る。

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【Sequence 8:友人の家】
大学の映画サークルの同期の家。そのリビング。
彼は去年子供が生まれた。
子供を抱いて楽しそうにしている光景。


映画サークル時代に出演した時の映像をインサート。


子供との映像に戻る。
「学生時代彼は渋谷でDJをやっていたこともある」
「そんな彼も今は商社マンで、子供も生まれ、家を買った」
「いつのまにか僕は自分が取り残されていることに気付く」

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【Sequence 9:法事】
羽田空港。航空会社のカウンターが並んでいる。ゲートラウンジを抜ける。
出発ロビー。バスは滑走路をゆっくりと進む。大きな飛行機が離陸の時を待っている。
飛行機の中。窓から下界を見下ろす。
青森空港を出て、青森市内へと向かうバスに乗る。
バスを出て、市街へ。
法事の行われる寺の中に入っていく。
無人の控え室の映像。
「今日、父親の23回忌の法事が行われる」
「このまま働き続けるべきかどうかという問題は東京にいるとある意味単純なものだった」
「青森に帰ってきて、父の遺影を前にすると、それはなんだか難しいものになってくる」
「早い話、やりきれないものになってくる」

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【Sequence 10:東京】
東京の映像。
東京タワーの展望台から東京を見下ろす。
「何をどうしたらいいかわかんなくて、ただただ日々をやり過ごしてきた」
「結論を先延ばしにする」
「僕はこれまでずっと結論を先延ばしにしてきた」

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【Sequence 11:撮影】
休日。フロアには会社の人たちが集まっている。
荷物の準備をして、ゆりかもめに乗ってお台場に出かける。
お台場の川縁にて撮影の準備を始める。
背景には東京タワーと高層ビル群が映っている。
「そんなある日僕はまた映画を撮り始めた」


リハーサル。そして本番。
僕は言う。「スタート!」


#1「Today Tomorrow Nextweek」の終わり近く、海辺のシーン。
若者たちが別れの言葉を交わす。「さよなら」
そこから過去の監督作品からいくつかのショットをつないだものを走馬灯のようにインサートする。
<音楽>


海辺の撮影の場面に戻る。望遠ショット。

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【Sequence 12:ラスト】
暗転。音無し。
「これまでに僕の作品に関わってくれた全ての人たちと」
「僕の作った作品たちに捧ぐ」


「さようなら、映画」


<音楽>


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