「ハチミツ」(準備稿⑥)

[直前のシーンの電車のショットから繋がる]


電車の中の(D)
(前のシーンではスーツだったが、このシーンでは私服となっていることで時間の経過を示す)

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駅を出る。何の変哲もない地方の都市。
(D)は鞄から地図のプリントアウトを取り出して眺める。

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(D)は地図を片手に住宅地を歩いている。
携帯で話しながら歩く。
(D)「ええ、近くまで来ました。もう少しで到着します」


1軒の家を見つける。
[家の側から、立ち止まった(D)のショットと、(D)を背後から撮って、家の全景が入るショット]


(D)はブザーを押す。


玄関が開いて、(F)が出てくる。
(D)はお辞儀をする。(F)は快く(D)を迎え入れる。(D)は家の中にお邪魔する。


※(F)は、(D)の失踪した友人(C)の兄という設定のため、(C)(D)よりは年上が望ましい。
※家は、(F)が両親とともに住んでいるという設定。

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客間。テーブルの上にはコーヒーないしは、お茶。
(D)(F)は向かい合って座っている。
テーブルの上には、ビデオカメラ用のテープが置かれている。


(F)「わざわざこんなところまで来てもらってすまないね」
(D)「いえ、こちらこそ」
(F)「こっちから行ってもよかったんだけど」
(D)「いえいえ・・・」


(D)(F)の二人が映像を見ている短いショット。
(C)の声。
(F)は笑っている。


見終わって、
(F)しみじみと、「あいつどこ行っちゃったんだろうな・・・」
(D)「手掛かりはなしですか?」
(F)「オヤジはもう諦めかけてるよ。お袋は時々夜、一人で泣いてる。
    死んじゃったのかもな。どこかで」
(D)「冷静ですね」
(F)「ああ。(C)がそういうやつだってのはわかってたから。
    ここじゃないどこかってのをいつだって望んでた。
    旅人体質の人間ってのがいるだろう?あいつは正にそれだった」
(D)「わかります。僕から見てもそうでした。
    大学のときも休みになると・・・」


[時間の経過を表すショット]
(F)は別な部屋からギターを持ってくる。「(C)のだ」と言って(D)に手渡す。
(F)は弾ける?と聞くが、(D)は弦をポロンと鳴らすだけ。
(D)も(F)に弾けますか?と聞くが、(F)はそのギターを受け取ろうとしない。
(D)と(F)は照れ笑いをする。

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(F)の運転する車に(D)が乗っている。
(F)のモノローグが被さる。


(F)「あいつは大学で哲学やってたくらいだから、
    自分とは何かとかそんなことばかり考えていた。
    理系の俺には何のことかさっぱりわからん。
    そんなことばかり考えてても、モノゴト全然先に進めないんだけどね。
    そのことを知って、そうやってみんな大人になっていく。
    でも、好きな人はそういうのがいつまでたっても好きなんだろうな」

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川原。※多摩川
(D)と(F)の2人が車を降りる。


川原へと下りていく(D)と(F)


適当なところで腰を下ろす。(D)と(F)
(F)が煙草を取り出して、(D)に薦める。(D)が受け取る。
2人は火をつけて煙草を吸う。


(F)「小さい頃、よく(C)とこの川原に来てた。自転車に乗って。
    キャッチボールしたり」
(D)「キャッチボールですか、懐かしいな」
(F)「グローブなら、トランクにあるけど」
(D)(断る意味で)「いいですよ」そして笑う。

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(現実の世界に戻る)


PCに向かっていた(A)は立ち上がり、疲れ切った様子でベッドに転がり込む。
目を閉じる。
そして目を開ける。天井を眺める。