「世界の終わりに」撮影開始

前作「29」を撮って、思い残すことはなくなった。
今までで最も自分の納得できるものを作った。
これでもう引退していいだろう。撮りたいものはなくなった。
と、思っていたのにあれこれいろんなことがあって
会社に「映画部」を立ち上げることとなってしまい、
立ち上げたからには映画を撮らなくてはならなくなってしまった。
「短いやつでなんか作るか」と思いつつ考えてみるのだが、何も思い浮かばない。
捕まえかけたようでいて書き始めてみるも途中で放り投げてしまう、そんなことの繰り返し。
撮りたくないわけではないし、むしろ撮りたい。終わりにしたくはない。
でも、中途半端なものでは撮りたくない。
参加してもらう人にも悪いし、製作の過程を引っ張るパワーが僕の中にも出てこない。
あーでもないこーでもないと
「29」を撮り終えてから1年半、編集終了から数えても1年、うだうだと悩み続ける。
まあ1年半絶え間なく悩み続けたわけではなくて、
時々ふらっと思い出しては「どうしたもんかなあ」とぼんやり考えていただけだけど。


それが先月末、いきなり話を思いつく。
脚本を書いてみたら1時間もかからなかった。ガチャガチャと打ち込むって感じ。
そして出来上がったのが「世界の終わりに」


・着ぐるみを出したい
・素人を集めても無理なく進められる話にしたい
・1日で撮影を終えたい
・部員を集めて車で海辺に行きたい
・「世界の終わり」について書きたい
・描いている場面は少なくても、その背後に大きな物語が横たわっているようにしたい
(1つの断片を描くことで他の物語を予感させたい)
といったようなそれまでなんとなく抱えていた漠然とした希望が全部織り込まれた。
なんとかなるものだ。


今回主役に選んだ3人は、僕の映画に初めて出てもらうことになる。
(そもそも映画というものにすら出たことがない)
前2作に出てもらったコジマさん、クリス君、ナカタさんなどは出てこない。
そういうのって新鮮でいいかなと思ったってのもあるし、
ただ単に日程が合わなかったというだけのことでもある。
その他、現実の映画部員が何人も、そのまま登場する。


問題となる、海辺での撮影は10月30日(日)、ぶっつけ本番で。1回きり。
リハーサルや事前の打ち合わせもなし。
脚本だけ渡して、当日の段取りを簡単にメールして、終わり。
こういうの、僕だって怖い。
でも、このやり方で望むものが「撮れる」ってことは経験上よくわかっている。


11月いっぱいかけて編集。
というか第1週の祝日と土日でだいたいのところ大筋は完成させる見込み。
そこから先は仕事が忙しくなりそう。時間が取れるかどうか分からない。

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10月9日(日)、3連休の中日に1人でこっそりとクランクイン。
自分の部屋で目覚し時計を鳴らして目を覚まし、ロフトから降りるって場面を撮った後、
駅まで歩いていく過程をカメラ回しっぱなしで撮影して、
そのまま各駅停車の総武線に乗って窓から見える風景をカメラに収めた。


(この日は東中野で降りて、「カレーリーフ」で昼を食べた)


電車の中でおもむろにカメラを取り出して撮影。
これって学生時代はよくやってたけど、というか「29」でもやってたけど、
いつもいつも緊張する。
乗客に「変な人」と思われてんだろうなあとか。
車掌に見つかって注意されないかとか。
(でも僕の経験では車両の中で窓の外の風景だけを撮ってる分には
 通りがかった車掌になんか言われることはこれまでなかった。
 ホームで撮ってると肖像権とかで注意されるけど)


次の日10日にはその部分の編集をして1分ほどの冒頭部分を完成させる。
前の映画「29」から「幸福そうな生活の断片」をコラージュして、
そこに「世界の終わりに」というタイトルをオーバーラップ。
音楽も仮の曲をネットで探してかぶせる。
クラシックの曲をオルゴールで演奏して MIDI 音源にしたものが
いろんなサイトで転がっている。
とはいえこれをそのまま使うつもりはなくて、会社の先輩に演奏をお願いしている。

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レンタル会社をネットで探して、着ぐるみの手配をする。

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映画サークルが映画を撮っているというシーンの撮影の「小道具」として
見栄えのいい大型のビデオカメラを
「29」同様、映画サークルの後輩イマナリから借りる。
住んでる場所がとても近いので21日の金曜に荻窪駅で会って受け渡しして、
その近くのハンバーグ屋で遅くまでダラダラと話す。


学年上はイマナリのほうが後輩ということになるが、年齢は一緒だ。次、31歳。
イマナリは学生時代に「PFF」ぴあが主催する自主映画のコンテストで入選しているが
(そう、そういう意味ではただ1人ダントツの才能があった)
今は映画を撮っていない。将来どうするか迷って、
制作会社に関わりつつもとりあえず現在は平たく言えば就職活動中。
「次に就く仕事が一生の仕事になるんだろうなあ。どうしたらいいんだろうなあ」と悩む。
口に出したりはしないが、僕だってそういうことを悩んでいる。というかずっと悩み続けてきた。
これは自主映画とは関係なく、
30歳前後の人ならばどこにいて何をしてようと、誰だって多かれ少なかれ悩むことだ。

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22日(土)、会社の映画部の月1の鑑賞会の合間にシンタロウと
渋谷のハンズや新宿のヨドバシを回る。
小道具がどうこうとか、マイクスタンドがどうこうとかそういうので。
渋谷のハンズでフリスビーを買う。
ハロウィンが近づいていたのでオレンジ色のカボチャが店内に溢れ返っていた。
ハンズに限らず、渋谷だろうとどこだろうとあちこちで見かけた。

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23日(日)、大学の先輩タツジンさんに車を出してもらって
汐留〜竹芝〜東京湾アクアライン〜海ほたる というルートで撮影。
風景撮りと30日の撮影で走る場所の下見。
よく分かってる場所ではあっても、事前に車で走っておきたかった。
あちこちの場所で「ここはどんなふうに撮ればいいのだろう」と考える。


快晴。これまでの曇りや雨が嘘のよう。夏のように僕はTシャツ1枚となる。
海ほたるにて夕暮れを待つ。雲ひとつない、くっきりとした夕焼けが空に広がる。
僕はその光景を、黄金色の太陽を、ビデオカメラで撮影する。
「世界の終わり」ってどんなのですか?と聞かれて、
特に決めてない、具体的に画面に出すつもりはないと答えていたんだけど、
このショットは使えるなあと思った。
つながりが悪かったら、セリフでほのめかすだけじゃなくて
やっぱ具体的に提示した方がしっくり来るなあということなら、
この夕暮れの太陽を「世界の終わり」のメタファーとして使う。


ラストシーンは夕暮れから夕闇、夜にかけての首都高の光景。
これも問題なく収録できた。

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当日のレンタカーの手配だとか、脚本の手直しだとか、
細かい段取りのチェックだとか。


仕事の合間にちょこちょこと作業を進めていく。
29日の土曜はこの前の日曜に撮った映像をハードディスクに取り込んで編集を行う。
レンタル業者から着ぐるみを受け取る。
サークルの後輩ミウラからビデオカメラを借りる。
バッテリーを充電して、ビデオテープも買いに行かなくてはならない。
やることがたくさんある。


30日は晴れるだろうか。
どうかいろんな物事が、うまくいきますように。