本を出した出版社が倒産した その3

(あとは、実際の説明会の流れに沿って)


ホールに、碧天舎の取り締まり役、社長、代理弁護人の3人が入ってきて席に着く。
場内は静まり返っている。


40代から70代ぐらいの男性が圧倒的に多いように感じられた。
同じような世代の女性もちらほらといて、
僕のような30代前後の男女も少数だけどいることはいた。


静かとは言っても開戦前夜のようなピリピリとした雰囲気。
司会役の取締役が最初の挨拶のために口を開くと、もうその時点で罵声が飛ぶ。
「聞こえねぇんだよ!!」
マイクを使って話そうとすると、
「ゆっくり言え!!」


録音していいもか?とどこからか質問が出て、
構いません、というような回答が返ってくる。
写真もOKなようで、何人かがデジカメや携帯で写真を取り出す。
「あ、いいんだ」と思った僕も携帯で何度か写真を撮った。


まずは社長の挨拶ということで、立ち上がり、
配布資料にもあった文章を元に話し出すのだが、
「読んでるだけじゃないか」という非難の声が上がる。
社長は「私が自ら考えたことを記したものです」と答えるんだけど、
納得した雰囲気は生まれず。
「誠意が足りない」ということなのだろうか。
(でもこの場で泣こうが土下座しようが何をしても許されないだろうとは思う)


この時点で発言する人、質問する人出てくるが、
代理弁護人がまずは式次第にのっとって進ませてくれと主張し、いったん落ち着く。


清算貸借対照表の説明に入る。
まずは資産のいくつか。
「取次売掛金」としてトーハンに対して700万円の売掛金があることになるが、
これも実際に本が売れなければ出版社側に支払われることはない。
今更この段階でそれは難しくて、
むしろ返本扱いとなってしまう可能性のほうが高い。売りにならない。
オフィスとして借りていたビルの「保証金」も1700万残っているが、
撤退するに当たっての清掃やレイアウトの戻しなどの費用を引くと何も残らない見込み。
などなど、資産としては3600万残っていることになるが、
実際的な資産の残高は約300万円ということになってしまう。
この300万円から破産財団が形成される。


ここで代理弁護人に対して、
「この300万円からあなたの給料が出ているのか?」という質問がなされる。
残り少ないお金が弁護士の費用に消えてたらとんでもない、という気持ちの表れなのだろう。
しかし代理弁護人は「給料は私の所属する事務所から支払われます」と一蹴する。


関連会社に関する説明へ。
ビブロス」(ボーイズラブ系のマンガで有名)、
「ハイランド」の2社も4月5日付で破産となった。
※他に2社、アニメの製作とPC向けゲームソフトの会社も破産したが、
 これは実施的に休眠状態にあったという。


ビブロス自体の業績はよかったのだが、碧天舎の破産に引き摺られての破産であるようだ。
実は碧天舎はここ何年かずっと赤字経営であった。
社長は私財を投じて碧天舎の再建に当たったが、
ついにこれ以上の事業の継続は困難であると判断するに至ったとのこと。
社長自らも近日中に自己破産の申請を行う。
社長は1月の時点では経営再建は可能である判断していたため、
「全ては私の経営能力のなさである」(ゆえに詐欺ではない)と繰り返し弁明していた。


従業員は3月31日付で解雇された。退職金も解雇予告手当てはなし。


貸借表の右側、負債の方に話が移る。
当然、株主への配当はなし。
前受け金として2億を超える額が記されている。
これはつまり「本を出しませんか」ということで「作家」から集めたお金ということになる。
破産した以上、これを返すことはできない。


ここで場内は、その後の果てしない怒りのピークの1回目を迎える。
「金は返せないのか!?」
「返せないって言うんなら、社長は一人一人訪ねて回って謝るべきだ!」
「いけしゃあしゃしてんじゃねぇよ!!」
「預けた金、一体何に使ったんだよ!?」
「詐欺じゃねぇか!!」


収拾がつかなくなりだして
代理弁護人は再度、一通り説明させてくださいと沈静化を求める。


代理弁護人は「出版契約」について話し始める。
(僕としては最も聞きたかった項目だ)
破産管財人が全て近々に契約の解除を行うとのこと。
これはよかった。


が、出版前の状態で社内に残っていた原稿について話が及んだとき、2回目のピークへ。
曰く、「ビル内に残ってはいるが、従業員を解雇してしまったため、
どの原稿が誰のものなのかわからない状態となっている。ビル内も立ち入りが許可されていない」


破産管財人(だったかな?不明です)に問い合わせたら
「原稿が散乱している状態です」とFAXが返ってきたぞと怒声が飛ぶ。


この後なし崩し的に質疑応答へと雪崩れ込んでいく・・・
大勢の人たちが説明を伺いたくて、やり場のない怒りをぶつけたくて、
マイクを求めて挙手したり、勝手に大声で話しだした。


(続く)