本を出した出版社が倒産した その2

詳しいことはよくわからないままなんだけど、
まずは配布物を読んだり説明会を聞いて知りえた状況を整理したい。
というか出席した「債権者」についてまとめておきたい。
(いかにして倒産に至ったのか調べて書こうとしたら、とてつもない作業量だ・・・)


通常債権者としては個人だったり法人だったりで
碧天舎に出資している人や支払いが滞っている人たち、
あるいは取次や倉庫、印刷や製本の会社、ないしは元従業員ってことになるんだろうけど、
集まって、発言しているのは碧天舎言うところの「作家」の人たちばかりだった。
出席してはいたのかもしれないけど、そういう立場の方からの質疑応答はなかった。


その「作家」もみな同じような境遇かというとそうではない。
僕が把握した限りでは、少なくともその場には3種類の人たちがいた。
「痛み」の順番と言ってもいいかもしれない。
①よりも③に当たる人のほうが、「詐欺だ」と焦り、憤っていたように思う。


(ただし、「痛み」というのは具体的な金銭的被害や社会的信用の失墜の度合いで
 単純に計れるものではないのだということをことわっておきます。
 心理的ダメージという意味では、人それぞれ受けた重みが違うはず)


これはつまるところ、どの時期に出版契約を交わしたかによる。
もちろん、これは早ければ早いほどよい。

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①本を既に出版している。


 【問題】
 ・店頭在庫はどういう扱いとなるのか、売れたらどうなるのか
 ・倉庫に眠っている在庫はどうなるのか。断裁されるのか。


 ・印税は入るのか。
 ・在庫が売り切れて本来増刷となるべき状況になったら、どうなるのか。

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②原稿を出版社に預けていて、校正段階だったり、
 印刷して発売待ちのまま止まっている。


 【問題】
 ・預けた原稿は返してもらえるのか。
  絵や写真、電子データとして著者側から預けたもの、
  あるいは印刷前の完成したPDFデータは返してもらえるのか。


 ・印刷されたけど書棚に並ばなかった本はどういう扱いを受けるのか。

 
 ※もちろん、振り込んだお金が戻ってくるわけではない。

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③契約をして振込みを行なったが、その後音沙汰がない。

 
 【問題】
 ・本の製作に当たってなんの作業もなされなかった。
  なのに、倒産してしまったので、振り込んだお金が戻ってくることはない。


 ※説明会で聞くところでは、 「契約を急がされた」
 「出版スケジュールを早めるよう求められた」という人もいたようだ。
 「振込みではなく、直接現金で持ってくることを求められた」人もいる。

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僕は①に該当していて、
しかも出してもう1年近く経過していて、周りの買ってくれそうな人も
みな買ってくれたあとで、これ以上売れる見込みはほぼなかった。
amazon を見てると、旅行記ってことで月に1・2冊は売れてたが)


正直、傷は浅い。
増刷になるとは思っていなかったし、
この本で食ってけるとは、その足がかりになるとは全然思っていなかった。
この本を出すことによって、身の回りでは話題になったものの、
社会的地位が上がったり下がったりしたこともない。
いわば、「作家志望だった青年がとにもかくにも、まあ一冊出せましたよ」という人生の記念。
(それでも買ってくださったみなさん、ありがとうございます。本当にありがとうございます)
原稿や電子データも返却されている。


倉庫に眠っている在庫、何百冊になるかわからないけど
自腹を切って倉庫代を払って引き取るかどうかだけがほぼ唯一の問題と言っていい。
それをどこか他の出版社から引き続き販売できるとは全然期待していない。


僕には、あの説明会にいる「資格」などなかったのかもしれない。
始まる前まで、「興味本位」とか「高みの見物」という気持ちがあったことは
正直に言っておかなくてはならないと思う。

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話を戻します。


大ホールでは、①②③この3者と出版社社長と代理弁護人とが向き合っていた。
「作家」が説明を求め、時として糾弾し、代理弁護人が回答を行なう、
場合によっては社長自ら当時の状況を釈明し、頭を下げて謝罪の言葉を述べた。


最初のうちは①②③という区分けはなく、「作家」対「出版社」という構図だけがあった。
それが徐々にヒートアップしていって後半、
それぞれの人たちの問題提起が大体のところなされた辺りから収拾がつかなくなってくる。


①の人たちが質問をしていたら③に該当すると思われる人が野次を飛ばし、
「あんたは本が出せたからいいじゃないか。マイクをこっちによこせ」と叫びだす。
質問の機会を求めて手を揚げている人が絶えずあちこちにいて、
業を煮やして次々にマイクもなく発言しだす。
理路整然と状況をまとめたい、具体的な事情や経緯を聞きたい、
自分の置かれた境遇を理解してほしいと思ってマイクを手にした人も当然いたけど
とにかく腹を立てて何かを言わずにはいられない人も多かった。
(その場にいた人は誰もがそう感じたのではないかと思うけど、
 代理弁護人のものの言い方がなんというか「ぞんざい」で、それが混乱に拍車をかけていた)
「社長とにかく謝れよ」と言ってる人が一方にいて、立ち上がり謝ると、
もう一方では「オマエが謝ったところでしょうがねぇんだよ」と野次が飛ぶ。
ずっとその繰り返し。


12時の終わりの時間が近づいても質問の挙手が途絶えることはなく、
終了の時間ですと代理弁護人が告げると、場内騒然となる。
「何の解決にもなっていない」「この後いったい何がどうなるのだろう」
失望した人は早々に退席したし、意気投合した人たちはその後もロビーで話し合っていた。


こういう債権者説明会って、どの業界でどんな会社であってもこういうものなんだろうか?
というか場の雰囲気は企業の倒産というレベルじゃなくて、
テレビのニュースで見るような「被害者の会」が「集団訴訟」のさなか
企業や政府を糾弾するという攻撃的なムードになっていた。
で、実際にそういう流れになりつつあるところで説明会は終わった。
今後どうなるのだろう?


当日の状況をを要約すると以上のような感じだった。
様々な立場の人が様々な問題提起を行なった。
しかしその解決に当たって、現実的ないしは前向きな方向性は何も示されず。


説明会の各論については、明日以後。


続く。