落雷

やけに鮮明な夢を見た。今でもはっきりと思い出せる。
そこに至る部分までの内容は忘れてしまったが、
ある時点から先については、目が覚めるまでのことを全て覚えている。


僕はある都市で生活していた。
(今思うと日本のどこかなんだけど、僕の中ではアメリカということになっている)
どういう経緯だったのかはすっぱり忘れてしまったが、
突然、内戦が始まって市街地で銃撃戦が行なわれる。
僕は廃墟となった建物の間を命からがら抜け出して、
僕の住んでいた「家」までたどり着こうとする。
空き家があったので休もうとしても、そこには銃を持った人がいて威嚇される。逃げ出す。
どうにかこうにか都心部を離れるとだんだんと戦闘状態ではなくなっていく。
しかし緊張感は続いている。得体の知れない重苦しい雰囲気が空を覆う。


目を覚ますと遠くで何かが爆発するような音が聞こえた。
続けてもう1度。2度、3度。
花火?そんなわけがない。
爆発音が徐々に近づいてくる。
夢うつつの中、北朝鮮がミサイルを撃ってきて東京が狙われているのだなと考える。
そうか、ついに始まったのかと。
あっけなく戦争になってしまうのだなあと。


・・・鳴ってるのは雷だということに気付く。
雨が降り出す。パラパラとしていたのが、あっという間に土砂降りになる。
屋根を打ち付ける強さはハンパじゃなく、
古い家の屋根だったら打ち抜いてしまうんじゃないかってぐらいの。
眠れなくなって、雨の音を聞く。


時計を見たら4時過ぎで、次に見たのが5時前か。
雷は遠ざかったり近づいたりしながら、東京上空で鳴り続けていた。
雨もピタッとやんだかと思うとまた次の瞬間にゴーッと降り出す。
結局僕は明け方ずっと、うつらうつらしながら雨の音を聞いていたことになる。
いつもよりも1時間遅く目覚ましをセットし直す。
いつのまにかまた眠っていた。


アラームで起こされて、ロフトから下に降りていく。
「変な夢を見たなあ」と思ってテレビをつけると、
今日は「9.11」から5年目。
そういうこともあって、無意識のうちに雷鳴を戦争と結び付けていたのだろう。
妙に納得する。


NHKのニュースではニューヨークが中継される。
貿易センタービル跡地にて、新しい4つのビルと
事件を語り継ぐ資料館の建設工事が始まったとリポーターが伝える。


あれはもう5年も前のことになるのか。
ブッシュ大統領が犠牲者たちに花を捧げていた。
僕はテレビを消すと、スーツを着て家を出た。
雨はあがっていた。
月曜。何事もなかったかのように一週間が始まる。