伊勢神宮・紀伊勝浦ツアー その4

朝5時半起き。外は暗い。5階の部屋。
窓の向こうに伊勢市のこじんまりとした町並み。
小さな音でテレビをつけてソチオリンピックを見る。
昨日に引き続き男子フィギュアスケートの再放送をやっている。
昨日びしょ濡れになった靴下をそのまま履く。新しいのにしない。
たぶん今日の午前中も残った雪の中を歩いてびしょ濡れになるだろうから。
暖房の調整が自分ではできない部屋で、靴下もスニーカーも乾かなかった。
JRの運行情報を確認する。この辺りはJR西日本ではなくてJR東海なんですね。
取り立てて遅れはなし。普通に戻ったようだ。
JR快速みえや特急南紀は夜までずっと運休となっていたようだ。
荷物をまとめ、歯を磨く。
今日は伊勢神宮が参拝できることを期待し、夜が明けだした頃にチェックアウト。


雪は少し溶けて歩きやすくなっている。しかしまだかなり残っている。
駅まで行ってみる。電光掲示板に参宮線上下出ている。特に遅れの表示はない。
土曜の朝、何事もなかったかのようにポツリポツリと利用者が改札の向こうに消えていく。
参道の商店街を歩いて外宮へ。悪い予感はしたけど
…やはり、入り口には柵。念のため聞いてみるがやはり今日も参拝停止。残念。
ホテルで聞いてからチェックアウトすればよかったか。
引き返す。駅前に朝から営業しているドトールやマックがあるわけでもなく。
昨晩通りがかって気になっていた食堂「若草堂」が営業中になっていて、
朝食メニューにトーストや伊勢うどんと書かれている。
外では背中の曲がったおばあさんがひとりスコップで雪かきをしている。
入っていくが誰も出てこない。雑然とした店内がどうにも昭和なまま。
それがシンと静まり返っている。
どこそこのテレビ番組が取材に来て誰それが食べたと誇らしげに紙に手書きで書いている。
仕方なく店を出て駅へ。7時ちょうど発の参宮線上りがあったのでそれに乗っていく。
昨日が昨日だからもしかして思いがけなく何かが起こるかも知れず、
少しでも目的地に近づこうと考える。


車両はふたり並んで座るタイプで、部活なのか高校生たちがチラホラと乗り込んでくる。
あとは何らかの会社員か。
おばさんを多く見かけるのは食堂のような場所で働いているのかもしれない。
ホームだけの無人駅をいくつか通り過ぎる。
特急に乗り換える多気は5つか6つ先で、20分過ぎに到着する。
ここは伊勢市駅周辺よりもさらに何もないところだった。
わずかばかりの商店街の入り口には「歓迎 多気町」とあって、
その横にデイリーヤマザキと旅館兼食堂があるだけ。
ここを観光を訪れる人はいるのだろうか…
いや、つげ義春系のプロフェッショナルはこういう鄙びたところこそ求めるのか。
ホームが2本。商店街の反対側には雪に覆われた田んぼが広がっている。
その向こうにこんもりと低く広がる黒ずんだ森。


紀伊勝浦行きの特急「南紀1号」は09:23発で今から2時間先。
スニーカーも靴下もぐしょぬれで駅を出て外を歩く気になれず。
ホームの待合室にわずかばかりの暖房が入っていたのでその中で本を読んで過ごす。
『知の逆転』を読み終えて、ハヤカワ・ポケミスの『ミステリアス・ショーケース』へ。
最近話題の作家たちのアンソロジー
『二流小説家』のデイヴィッド・ゴードン、『解錠師』のスティーヴ・ハミルトン、
『緋色の記憶』のトマス・H・クックなど。
冒頭のデイヴィッド・ゴードンの2作を読むうちに時間が来る。
時折日差しが差し込んで少しでもスニーカーを乾かそうとする。
30分に1本ぐらいの割合で伊勢市行きの1両か2両編成のローカル線がホームへ。
待合室に高校生やお年寄りが入ってきて、しばらくしてから出て行く。
それを何度か繰り返す。


時間通りに特急が来る。
駅の売店は改札の向こうか。見当たらず。
缶ビールやチューハイを買うことはできず、酒は飲まず。
本を読んで過ごし、時々うたた寝をする。
南に向かううちに少しずつ雪が減っていく。
山を越えてトンネルを抜けて尾鷲市の辺りまで来ると雪が全くない。
のどかに田んぼや農家の点々とする風景が右側に続く。
こっちでは降らなかったのか。紀伊半島全域が雪ということはなかったのだな。
松坂、熊野。さらに下るうちに左側に海が見え始める。
雪はなくても低気圧は通り過ぎていったのか、
波が豪快に高くてサーファーたちの姿が垣間見えた。
新宮の駅で少し停まる。一昨年の熊野古道を歩いた旅のことを思い出す。


11:55 紀伊勝浦到着。ここもまた2年ぶり。
学生のアルバイトなのか赤い法被を着た若い男女が慌てて
パンフレットの載った台を運んできて改札を出てきた観光客たちに配る。
昨日はバレンタインデーだったので、とキットカットが2個入ったのもくれる。
紀伊勝浦はお雛様の町でもあるので、雛壇がふたつ並んで飾られていた。