どのぐらいの時間がたっただろう。
僕らは穴を埋めた側に立ち尽くしていた。
そしてまたそうするより他なかったので、車へと戻ることにした。
降りだした雪がダウンジャケットの肩やフードに積もっていた。
歩きながらミユキが言う。
「南の方に行けば少しは暖かいんじゃない?」
先に着いていたリョウジが遠くから叫ぶ。「ガソリンあとどんだけある?」
「ねーよ!」と僕は叫び返す。そうだ、何よりもまずガソリンを探しに行かなければ。
もしかしたら2・3日はこの町から出られないかもしれない。
「ねえ、私も南の方に行きたい」とヨウコが言う。
「あったかいのかなあ」
「大学がどうなってるか見てみたいよね」
「あーそれいいね。見てみたい、確かに」
ヨウコが「あ!」と大声を出す。「私、今、すごいこと思いついた」
「え?なに?」
「温泉を見つければいいのよ。で、ずっとそこにいればいいのよ」
「それ、よくない?」とミユキがはしゃぎだす。「なんで誰も考えなかったんだろ!?」
「そうよ!そうすればいいのよ!!」
僕は立ち止まってヨウコとミユキを先に行かせた。
振り返ってダイスケが埋まっている辺りに目をやった。
この町のことを覚えておかなくてはならない。
いつの日か、何年後か、僕らはまたここに戻ってくるかもしれない。
僕らみんなが旅を続けていて、あるいは誰かがたった一人で。
僕らはジープに乗り込んだ。
エンジンがかかって、中はほんの少しだけ暖かくなった。
「音楽を聞こう」とダイスケが言う。
プラスチックのカゴの中からMDを探す。
バッテリーの減りが早くなるから僕らは普段CDもMDも聞かない。
だけどこんな時にはいいのではないかと思う。
車がゆっくりと動き始めた。
せっかちなリズムに合わせてボーカルがメロディアスなラインを歌いだした。
ギターがギュイーンと唸った。パンク?なんか違う呼ばれ方をされてたな。
まあとにかく21世紀になって何年かした頃に流行っていた曲だ。
コンビニや居酒屋やいろんな場所で聞いた。
あの頃の僕らは、いたって普通の大学生だった。
10代の終わりを名残惜しむように遊び歩いて明け暮れる、そんな普通の若者たちだった。
車はノロノロと雪の上を走った。
あーこれ知ってる知ってるとリョウジが歌いながらハンドルを握った。
ミユキとヨウコもそこに加わった。
僕は目を閉じた。眠かった。疲れきっていた。
気がつくと体は熱っぽくて、ダイスケのが感染ったのかなと一瞬考えた。
どうでもよかった。
目が覚めたら元の世界に戻っている、そんなことがあればいいのに、
薄れていく意識の中でそんなことを思った。
そこから先のことについては特に言うことはない。
僕らは海辺の町を走り続けた。
ガソリンを見つけては補給して、エンジンが回転し続ける限り海辺の町を走り続けた。
いつかどこかにたどり着くことがあったら、そのときにまたそのことを語ろうと思う。