広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス
- 作者: スティーヴンウェッブ,Stephen Webb,松浦俊輔
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2004/06/01
- メディア: 単行本
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内容はタイトルがその全てを語っている。
我々は今、文明を持つ知的生命としてこの地球という惑星に住んでいる。
ロケットを飛ばし、月の地面を踏み、太陽系の外にまで探査機を飛ばすまでになった。
ここでふと思う人がいる。
地球人にこれだけできるのであれば、
銀河系あるいはその外にはもっともっと計り知れなく進歩した星があって、
銀河系を植民地にしていて次々と移民の波が押し寄せ(大航海時代以後の西欧文明を参照)、
我々の元に来ていてもおかしくはないのではないか?
殖民とまでは行かなくても何らかのコンタクトがあってしかるべきではないか?
なんでその痕跡が見当たらないのか?
(UFOの目撃談がたくさんあるじゃないか、っていうのは除外する)
もしかしたらこの全宇宙に存在しているのは地球人だけなのではないか?
「この宇宙がエイリアンだらけだとしたらみんなどこにいるのだろう?」
「知的生命が存在すると予想されるのに、その兆しが見当たらないのはなぜだろう?」
フェルミはこのようにパラドックスを唱える。
これは昨日書いた「シカゴにはピアノの調律師が何人いるか」と同じ問題となる。
つまり、「発達した通信能力をもった地球外文明は銀河系にいくつあるか」
その気になればいくつかの変数を持った、確率論的な式に変換することも可能であって、
その変数を構成するものは以下のリストとなる。
・銀河系で一年に星が生まれる率
・惑星を持つ恒星の割合
・惑星を伴う恒星のうち、生命が維持できる環境を持つ惑星の数
・生命が維持できる惑星のうち、実際に生命が育つ割合
・その惑星のうち、生命が知的能力を発達させる割合
・そのうち恒星間通信ができる文化が発達する割合
・最後に、そのような文化が通信を行う機関の長さを表す年数
→ そしてこれら全てを掛け合わせる。
もちろん、これらの変数には決まった数値はなく、
それぞれの研究分野の科学者がそれぞれの立場から数値を当てはめていくので
人によって大きな値(この宇宙は知的生命で溢れかえっている)にもなれば
ものすごく小さな値(この宇宙の中には地球人しかいない)にもなる。
この本の中では見当たらない50の理由をまず3種類に分ける。
(この50個は主に20世紀後半のいろんなジャンルの科学者や、
場合によっては科学に詳しいSF作家が提唱したもの)
①実は来ている
②存在するがまだ連絡がない
③存在しない
そして①はさっさと片付けるとして、②③について、
様々なジャンル(物理学、天文学、生物学から言語学に至るまで)の科学の
最新の研究成果をもとに検証していく。
つまり、上記の式にどういう値を当てはめていくべきかが決定されていく。
(どういう結果となるかは本を読んでください)
この過程が自分の中で忘れられていた知的好奇心を刺激するというか、一言で言って「スリリング」
現代の科学では何が話題となっていてどういうことが定説となっているかが概観できる。
僕はSF的なとっぴな解決(アイデア)や宇宙人に対する興味から手に取ったんだけど、
いつのまにか理系的なトピックの数々に心奪われていた。
小さい頃に図鑑で月の写真を見たときや「子供の科学」的な本や雑誌を見たときの
ワクワクした気持ちが蘇ってきた。
蓋を開けてみればこれはフェルミ・パラドックスの形を借りた
大人のための純粋な科学入門。ものすごくよくできた、良質なガイドブック。
こういう入門ものって分野ごとに概要を説明するものだったら散漫なものになってしまうし、
雑学的なものにしたら雑学的なもので終わってしまう。
それがこの本の場合
「この宇宙がエイリアンだらけだとしたらみんなどこにいるのだろう?」
という多くの人が「おや?」と思うような地点から出発して
その枠組みを大事にしているので話の流れがきっちりまとまっている。
著者であるスティーブン・ウェッブはイギリスの現役の物理学者。
単なる読み物で終わらず、註も参考文献もしっかりしている。
つまりここから、それぞれが興味をもった分野に進めばいいのだ、ということなんだろうな。
なお、気になる50の解のいくつかを挙げてみると、
①実は来ている
解1 彼らはもう来ていて、ハンガリー人だと名乗っている(これはほとんどジョーク)
解4 彼らは来ていてここにいる −−−われわれはみんなエイリアンだ
②存在するがまだ連絡がない
解9 星はあまりに遠い
解10 こちらまで来るだけの時間がまだ経っていない
解16 向こうは信号を送っているが、その聴き方が分からない
解21 みんな聞き耳をたてているが、誰も送信していない
解24 向こうは別な数字を作っている
解26 どこかにはいるが、宇宙はわれわれが想像しているよりよくわからない
③存在しない
解31 宇宙はわれわれのためにある
解32 生命は登場してまだ間がない
解34 われわれが一番乗り
解41 地球の地殻構造は特異である
解43 生命の誕生がめったにない
解44 原核生物から真核生物への移行がめったにない
解46 技術の進歩は必然ではない
僕が読んで目からウロコだったのは解32や解34の辺り。
恒星系が形作られてその惑星上に知的生命が育つまでに必要とされる期間は
何十億年という単位ではきかない。
ビッグバンから数えて、この宇宙がどれだけの年月が経過したかを計算してみたら
もしかしたらわれわれ地球人が先頭集団に入っているのではないかということ。
そしてその地球人の科学レベルが今この程度なのであるから、
広い広い銀河系やその外に他に知的生命の育った星があったとしても
遠く離れすぎていて互いに行き来はおろか通信すらできないのだということ。
ハインラインではないが、僕らは「宇宙の孤児」なのである。