僕の音楽遍歴 その4(中学校2年①)

どういうきっかけなのかは覚えてないが、ブルーハーツにはまる。
「Train Train」がテレビドラマの主題歌になったとき?
いや、もう少し前から名前だけは知っていたような気がする。
その頃には音楽雑誌を時々立ち読みするようになっていて
チェルノブイリ」のシングルが話題になったことや
「リンダ・リンダ」の存在は既に知っていたと思う。
とにかく生活の全てがブルーハーツ一色に染まる。
寝ても冷めてもブルーハーツのことばかり考える。


「パンク」というものに、「パンク」という概念に憧れる。
安全ピンの刺さったTシャツに中指を立てるようなパンクもそうだが、
もっと、なんというか、行動理念としてのパンク。
アンチテーゼ。この世に対するあらゆる物事に対しての。
表立っては反抗期らしい反抗期の無い、大人しい14歳の僕は
思春期特有の鬱屈したモヤモヤした気持ちをぶつける先を求めていたのだと思う。
何かがうまくいかないのなら、また別な何かに対して「ノー」と言いたくなる。
その「ノー」を具体的な行動にしたり、
誰かに向かって声に出して突きつけることができないから
その屈折した気持ちは内へ内へと向かう。
部屋の中で音楽を聞くだけになる。
ブルーハーツさえあればいい。
「何かについておかしいと思って、否定すること」を、肯定すること。
この世界では何が正しくて何が正しくないのか、教えられたような気がした。
(そして今でもそのときの気持ちを引き摺って、僕は生きている)


「Train Train」に至るまでの3枚のアルバムを入手して聞いた。
語録集である「ドブネズミの詩」を買って貪るように読んだ。
中学は坊主の学校だったというのに、マーシーに憧れてバンダナを巻いた。


中学2年の冬、ブルーハーツのライブと言うかコンサートに行った。
自分の意志で行くコンサートはこれが初めてだった。
全国ツアーの一環として青森市文化会館で行われた。
当時の青森市では1番大きな会場ではないか。
チェルノブイリ」は「六ヶ所村」と言い換えられて歌われた。
ヒロトは痙攣しているかのように奇妙に体をよじらせたり、飛び跳ねたりしながら、
時々音程を外しながら歌っていた。
僕にしてみれば生まれて初めて会う、神様だった。
等身大の、2階の後ろの席で見ればやけに小さな、神様だった。
クラスの友人と2人で見に行った。
終わった後で、2人でずっとバスにも乗らず興奮したまま歩き続けた。
その頃僕は詩の真似事を書き始めていて、その「パンク」な詩を披露した。
バス代が足りなくて、降りるときに運転手に怒られた。


「人にやさしく」「終わらない歌」「リンダ・リンダ」「キスしてほしい」
「英雄にあこがれて」「チェイン・ギャング」「僕の右手」「青空」・・・
正直な話、今となっては一切聞かない。
客観的になれないってこともそうなんだけど、
はっきり言って「痛い」んだよな。いろんな意味で。
2枚目の「Young & Pretty」のマーシーの曲は聴き返してみたいのだが、
まだ当分僕には無理そうだ。


3枚目の「Train Train」で出会って、そこで終わり。
4枚目の「Bust Waste Hip」からは聞かなくなった。
僕が行ったコンサートでも「Bust Waste Hip」からの曲は先行してやっていて、
アルバムが出たときにももちろん発売と同時に買ったのだが、
なんだか自分の中でブルーハーツは終わってしまったような気がした。
初期パンクの衝動だけで闇雲に拳を壁に叩きつけて
「チキショー!痛てーよ」と言ってるような若々しいブルーハーツはいなくなって、
グループサウンズ的パンク、歌謡曲的パンクとしての側面が強調されたように感じられた。
今思えば音楽的には面白いコトを試みていたのかもしれないが、
15歳の悩める少年にとっては全然必要なものではなかった。
「情熱の薔薇」は何がいいのかさっぱりわからなかった。
5枚目以後はアルバムを買うことも無くなった。
解散したと聞いても「・・・そうかあ」ぐらいにしか思わなかった。
The High-Rows も聞かない。
街でかかってて「この曲いいかも」と思うことはあっても、
怖くて手に取れない。


とは言っても、今でもカラオケに行ったら絶対ブルーハーツの曲を歌ってしまう。
歌うというよりは叫ぶというかがなるというか。
他の人が入れてたらマイクをうばって勝手に全部歌ってしまう。

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深夜に放送されていたレナウンのコマーシャルでブルーハーツの曲が使われていた。
「リンダ・リンダ」のバージョンと
「キスしてほしい」のバージョンとを見たことがある。
派手に着飾った女の子が何人か出てきて、音楽に合わせて踊るというものだ。
実際の曲の発表順とは逆に、「キスしてほしい」の方がコマーシャルでは先だったように思う。
僕のブルーハーツ初体験はこれ。
衝撃だった。ものすごくキュートだった。
そうだ、売れ始めのブルーハーツというのは何よりもキュートでキッチュな存在だった。