「悪魔とダニエル・ジョンストン」

昨日に引き続き、11月2日に見た映画。その2


悪魔とダニエル・ジョンストン」渋谷ライズX
http://www.akuma-daniel.com/


オルタナティブ系ミュージシャンたちの間では
「天才」と賞賛されてやまないダニエル・ジョンストンの伝記映画。ドキュメンタリー。


小さな頃からアメコミを独自に解釈した奇怪な絵を書き続け、
大学はドロップアウト、まともな職に就くことはできず、
一般の人からは正気の沙汰とは思えない下手なギター(あるいはピアノ)で
実らなかった恋の相手に捧げる曲を何百曲も作って歌い続けるうちに
テキサス州オースティンの生きる伝説となったシンガーソングライター。
MTVに紹介され一躍有名となるものの、ドラッグに手を出し、宗教に救いを求め、
傷害事件を起こして精神病院に押し込まれ、その後入退院を繰り返す。躁うつ病と診断される。
今も坑うつ剤を飲みながら音楽活動を続ける。
年老いた両親の世話を受けながら。


若き日のダニエル・ジョンストンはラジカセと手近な楽器だけで
カセットテープに曲を吹き込んでは人に配っていた。
手書きのイラストを添えて。代表作が「Hi, How Are You ?」
Nirvanaカート・コバーン
この「Hi, How Are You ?」のTシャツを着て何度か人前に出た。
「なんだあのイラストは?」ってとこから、
ダニエル・ジョンストンが生涯で2度目のスポットライトを浴びる。
こぞってアーティストたちが彼の曲をカバーして
(例えば、Yo La Tengo 「Speeding Motorcycle」が有名か)
孤高のソングライターとしての地位は揺ぎ無いものとなった。


ダニエル・ジョンストンは録音マニアだったため、
日常生活のありとあらゆる出来事を隠し撮りしていた。
母親がガミガミと叱っているときや、
なんと自由の女神に落書きをして逮捕されたときのこと。などなど。
自ら吹き込んで友人に送ったカセットテープの手紙も残されている。
自ら監督・主演した8ミリの短編映画
(たいしたもんではなく、あくまでホーム・ムーヴィー)といった素材もあって
このドキュメンタリーは一種独特のものとなっている。
監督が手がける前から、素材はこの世に転がっていた。
一から撮影して過去を再構築する必要はなかった。
現在のダニエル・ジョンストンを追っていくだけでよかった。
素材は逆にありすぎて、溢れんばかりになる。見てて無駄な時間が一切ない。
どこをどう切り取ってもダニエル・ジョンストンのが生き様がこれでもかこれでもかと。
ミュージシャンのドキュメンタリーで
ここまで情報が濃密なものってそうそうないのではないか?
なんつうかこのドキュメンタリーを作ることを目的として
ダニエル・ジョンストンがこれまで生きてきたかのようだ。


これってダニエル・ジョンストンThe Beatles に憧れる余り
自らを「ロックスター」となぞらえていたことに起因するんだろうな。
ロックスターたるもの、人前に出たときの記録が残っていて当たり前という。
それと、精神を病んだ人特有の収集癖・・・


僕ももちろんダニエル・ジョンストンのアルバムは何枚か持っていて、
日々聞くってことはさすがにないけど、
ときどき思い出しては聞いてみたり、新譜が出ると買ったりする。
あの独特のかすれた、子供時代からそのままのイノセントな声と
屈折したところが一切ない、媚びたり計算したところが一切ないメロディーを聞いてると
確かにこの人の紡ぎ出す音楽はすごいと思わざるを得ない。
だけどその半分は、Sonic Youth だったり
大勢のミュージシャンが彼へのリスペクトを口にしていることから感じる
「これが常識なんだ」という雰囲気がなせるわざなのかもしれない。


映画の中で紹介されていた興味深いエピソードを1つ。
ダニエル・ジョンストンは30代後半にして初めて、
The Beach Boys の音楽に触れたのだという。
彼は「Pet Sounds」を知らなかった!びっくり仰天。
知ってからは貪るように買い集めたのだとか。微笑ましい。
Pink Floydシド・バレットと並んで
The Beach Boysブライアン・ウィルソンは精神を病んだアーティストとして
ダニエル・ジョンストンと比較されるようであるが。
あのイノセントなポップの感覚って The Beach Boys というか
ブライアン・ウィルソン直結みたいなものなのに。
全く独自に The Beatles を手本に生み出されたものなのだなあと感心してしまった。


ダニエル・ジョンストン
今から100年後も記録に残っているとしたらならば
一言で行ってしまえば、アウトサイダー・アートの人ってことになるのかな・・・
それともあくまで音楽の世界で功績を認められるか。
後世の人がどう思うかって意味でものすごく興味深い
シンガーソングライターにしてイラストレーターである。


彼は The Beatles にどこまで近づけたと思っているのだろう?
まだまだ全然遠くなのか。
それとも仲間意識を持てるほどの近くにまで来ているのか。
いつか機会があったら、そこのところを聞いてみたい。