「フィッシャー・キング」

12月のとある休日、
テリー・ギリアムのこれ、見てなかったよな」ぐらいの軽い気持ちで廉価版のDVDを見る。
結果、不覚にも名画。これはやられた。


テリー・ギリアムについては、「個人的に好きだけど、そもそもどうよ」という思いがずっとあった。
例えば、代表作にしてカルト的人気を誇る「未来世紀ブラジル
これ、ほんと素晴らしい。
タイトルが「brazil」なんだけど、それって映画の中で使われてる曲が
アメリカ産(つまり、非原産地国)サンバの名曲「Aquarela do Brasil」ってだけじゃん、っていう。
で、主人公の妄想といつの間にか巻き込まれてる大惨事の映像の途方もなさがすさまじいことになってて。
巨大建築物フェチにはたまらない。
主演の2人の演技はイマイチで、だけど「ダクト」役のロバート・デ・ニーロが無駄に怪演・快演ってのもいい。
つまり、映画として評価するなら採点は厳しくなるけど、
個人的にくすぐるポイントは非常に多く、なーんか許してしまうという。


フィッシャー・キング」も原則、そんな感じ。
映画そのものはこの人、ぶきっちょなので名だたる監督に比べたらかなり下手。
でもねえ、かなり泣けるんですよ。
主人公の2人がジェフ・ブリッジスロビン・ウィリアムズの名優。
前者がニューヨークのラジオ局の売れっ子DJで、
不用意な発言が大量殺人事件を引き起こしてしまい、失意の日々を過ごす。
後者はそのとき死亡した被害者の夫。事件がショックで記憶を無くし、ホームレスとなる。
この2人がひょんなことから出会って、ロビン・ウィリアムズの「聖杯探し」と
いつも見かけるドジな女の子とデートしたいという欲求、この2つを満たすために
罪悪感でいっぱいのジェフ・ブリッジスが最初嫌々ながらも次第に本気になっていって実現させるという。
まあ一言で言えば荒唐無稽なラブロマンス・コメディ。脚本もかなりなところご都合主義。
これがねえ、もう1度繰り返すけど、泣けるんですよ。


何が泣けるって、ドジな女の子役のアマンダ・プラマー
最初見てる分には奇妙奇天烈なドジっぷりにキワモノ?と思わせる彼女が
メリル・ストリープソフィーの選択」ばりに
突拍子もない運命に翻弄されつつも純愛を貫くって役どころなんですね。ここですよ。
アマンダ・プラマーって言っても普通知らないかもしれませんが、
パルプ・フィクション」のハニー・バニーですよ。
朝のファミレスで客席に拳銃を向けて喚き散らす、例の。
その直後「Miserou」のイントロが流れてっていう最高にかっこいいオープニング。
あれは映画ファンならば一生忘れられないですよね。


不器用ながらも、真正面から純愛の映画を撮ったってのが清々しくていい。
そして、そこに、テリー・ギリアムならではの映像的に独特なこだわりをもった場面が連なって。
ロビン・ウィリアムズを追いかける炎に包まれた赤い騎士がニューヨークの街並みを駆け抜ける。
グランド・セントラル駅のホールを通り過ぎるアマンダ・プラマーと、見守るロビン・ウィリアムズ
いつのまにか行きかう人々はワルツを踊っていて、恋するロビン・ウィリアムズを祝福する。
この場面の美しさと言ったら・・・!
ぶきっちょな天才の面目躍如ですね。


あと、この作品でアカデミー助演女優賞を獲得した、マーセデス・ルール。
酒びたりのジェフ・ブリッジスを住まわせて食わせてと見守る役どころで、
この人が映画を引き締まったものにしていた。
テリー・ギリアムの映画にしては珍しく
役者のアンサンブルがいいと唸らせるのも、この人あってのおかげ。


全般的な雰囲気としてはテリー・ギリアム特有の懐の広いようでいて隙間の多い不思議な間合い満載で、
なんかエミール・クストリッツァ監督の「アリゾナ・ドリーム」をホウフツとさせる。
アリゾナ・ドリーム」と「ソフィーの選択」という
一見ありえない組み合わせで足して2で割ったような作品ですね。