歴史の瞬間

昨日の夜見かけたニュース。
天安門事件 謎の「戦車に立ち向かう男」」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090604-00000611-san-int


天安門事件の有名な場面。
広場を進む戦車隊の正面に立ち、長い時間一人きりで向かい合う青年の姿。
彼は戦車隊がそれ以上進んでいくのを阻止する。
その、孤独な戦い。


YouTubeに動画がある。
http://www.youtube.com/watch?v=CdKgtIenuWI


事件から20年目の今、彼の身元はいまだに不明なのだという。
それまで民主化活動に加わった経歴はなし。
本当に、ただその場に居合わせただけの若者のようだ。
知らなかった。民主化運動の名のあるリーダーだとばかり思っていた。
(後姿の映像・画像しか残っていないというのがポイントなのだろう)


当時、ほぼリアルタイムにこの映像を見た。
天安門事件は当時大きなインパクトを持つ出来事であり、
テレビ局でも急遽特番が組まれた。
そのときにこの青年のことを知った。
14歳の、海を隔てて反対側の国に住む少年の心に焼き付いて離れなかった。


天安門事件の政治的意味は、正直あまり詳しくはない。
結局は誰が正しかったのか。どんな利害関係があったのか。
それでも彼のことを「英雄」だと思い続けてきた。
一人の孤高の英雄が、敵対する現実の世界に立ち向かう姿。
その信念を貫き通す姿。
後にも先にも他に見たことがない。思い出せない。
スポーツの世界になら、いくらでもあるんだろうけど。


ただの普通の若者だったとして、その後の人生がどうなったのか、とても気になる。
ニュースの中では投獄された、気が狂った、台湾に逃れた、とお決まりの噂が挙げられている。
僕ならば、彼はその後普通に中国で暮らし続けたのではないか、と思いたい。
当時のことを一切語らずに、封印して。
そしてあの日の自分が変えられたこと、変えられなかったことを時々そっと思い返してみる。
ありきたりな仕事に就いて、家族を持って。


あるいは、事件の直後捕らえられて、その場で秘密裏に処刑となったのではないか。
最重要危険人物として。
だってその後の反体制運動のシンボルとして広く普及しないはずはないのだから。
こっちの方が可能性は高いと思う。


YouTubeの短い動画を何度も何度も見返してみた。
その度にあれこれ複雑な気持ちになる。
あの場に立っていた彼の胸中はどんなだったのだろう?
何が流れていたのだろう?
どんな思いで、戦車の前に立ったのだろう?


20世紀最後の英雄。
その後の彼が、あの日のことを後悔していないことを望む。