サマソニ09 その4(8/7:七尾旅人)

さて、七尾旅人。以下、思い出せたことを全て書きます。
でも、記憶が間違ってることが大半かもしれません。


River Side Garden の芝生の前の方をしっかりキープする。
まさか、サマソニで見れるとは思ってもみなかった。
僕はこの人、天才だと思っている。定義不能の天才。
そこをあえて一言で言えば宅録弾き語りとなるか。
初期の入手困難なマキシシングルも amazon の中古で 8000円ぐらいで出品される度に買い求めた。


むき出しのアコースティックギターと黒のリュックサック、
網目の粗いテンガロンハットみたいなのをかぶって、
江戸時代の職人が着るような黒の上下、その下にはピンク色のTシャツ。
指の分かれた黒い靴下を履いて、下駄。
機材のセッティングをしている間、ステージ上のスタッフに神経質そうにあれこれ注文をする。
うまくいかなくて、自分でやりだす。見てると、優しい人なのか怖い人なのかよく分からない。
マイクに向かって「ア、ア、マイクテスト、テス、テス」と何度も繰り返す。
ガムテープで補強したと思われる譜面台と、パイプ椅子の上にサンプラー
1人でやるのかなと思いきやそうじゃなくて、ドラムとキーボードも後ろにセッティングされている。
マイクテストなのか機材の準備なのか、声にエフェクターを掛けたりループさせたり
あれこれやってるうちに唐突に始まる。いきなり、10分押し。
「どうも始めまして、B'z です」と言って、「おどろよベイベー」と
「Easy Come, Easy Go」をものすごくゆっくりしたペースで弾き語る。
これがまた、うまいんですね。
例の七尾旅人のあの声と歌い方に乗っかると、普遍的な、とんでもない名曲のように聞こえた。
(まあ、B'z のシングル曲って基本的にどれも名曲なんでしょうけど)
あの、大人になりきれない子供が、拗ねてふてくされつつも、
この世にたった一つだけ存在する真理をまっすぐ追い求めるかのような。


サンプラーにも「Easy Come, Easy Go」が入っていた。
「好きなんで、いつも入れてるんです」どこまで本気なのか・・・
ウォーミングアップが終わって、「冗談です。七尾旅人です」と。
そして1曲目を始める。一昨年出た3枚組み問題作「9.11 FANTASIA」の中の「airplane」
この曲を、ウッドストックのような往年のロックフェスへの敬意をこめて歌いたいと七尾旅人は言う。
戦争に反対だとか、そういうことを言ってたあの時代。
昔のフェスってそうだったじゃないですかと。
いつだって、戦争に行くのは貧しい人たちだ。
今も世界のどこかで貧しい黒人が戦闘機に乗って空を飛んでいる。
ジミヘンはウッドストックアメリカ国歌を演奏した。
あれ、最初は国歌なのにだんだんと戦争の情景をギターで表現するように変わっていく。
あれを僕は、この「airplane」という曲でやりたい。
(やがて、キャラクターに入り込む)
ウッドストックにも俺、新人枠で出てたんだけどさ、ジミヘンすごかったよね。
俺が2歳年下で・・・


そして聞いた「airplane」はやはり天才だった。
歌も演奏も気の向くまま、あっちゃこっちゃに行ってしまう。
だけど、何か、七尾旅人にしか表せないものを表現している。
七尾旅人にはこの世界はこんなふうに見えているという、その全て。
「私を乗せて 飛行機よ舞い上がれ
 あの娘が見た景色を 何度も見せてくれ」
単純なフレーズを、調子を変えて何度も何度も繰り返す。
サンプラーからの音を使いつつも、基本は自分の声とギターだけで。
その移ろいゆく様が、そのまま、七尾旅人にとってのこの世界なのだ。
それがダイレクトに、痛いほど伝わってくる。


終わって、譜面台に乗せた右側のクリアファイルから、恐らく歌詞の印刷された紙を左側に移す。
次の曲は、「パンクジャズ」(と呼んでいた)
ここで、サポートとして石橋英子という人が登場。キーボードとドラムを演奏するという。
「ヨシキからいい部分を抽出したような、仲間内では目の見えるスティーヴィー・ワンダーと呼んでます」
この人のジャジーな寄り添うピアノと、ドラムになったら突然暴れ太鼓になるというギャップがすごかった。


この River Side Garden は風が強いようで、かなりてこずっていた。
「フォークの人はなんでフェスに呼ばれないんですかね。風が吹くと演奏できなくなるからですかね。
 友達の豊田道倫がパラダイス・ガレージってのをやってるんですけど、
 こういうフェスに呼ばれるとこって見たことないですよ。
 あ、ある。大阪の春一番ってやつ。
 彼には出てほしいね。サマソニのメインステージに。
 で、『毎日オナニーやってるよ、時々チャーハン作ったよ』ってメインステージで弾き語りしてほしい」


その次は昨日作った曲というのを披露。
「ライヴで即興で曲を作ってやるのはよくあるけど、作って18時間って曲をやるのは珍しい」
この曲の中で「君たちにはチャゲアスの飛鳥になってほしい。一緒に歌おう」ということで
「どんどん季節は流れて」というフレーズを歌わせる。
昨日作ったばかりだから構成がよく分かってなくて、と言いつつ歌い始める。
だけど途中で「やめた。だめだ」
僕らの声が小さい、温まってないってことで次の曲へ。「まずはこれを歌ってからにしよう」
そう言って次の曲は「あの娘はスーパースター」(「パンクジャズ」もそうだけど、これも新曲?)
YouTubeなんかによくあるんだけど、その辺のバンドの曲よりも、
茨城のヤンキーがカラオケで歌ってるのを見た方がすごい。
誰だって、すごいんだよ。
そんな思いが込められている。
この曲に「ベイベ、ベイベ、ベイベ」と3回繰り返す箇所があって、そこを歌う。
これは七尾旅人も満足したようで、よし!と昨日作った曲を歌い直す。
七尾旅人は嬉しくなったようで、歌い終わって、「最高」と。
「忙しくて終わったら僕、すぐ帰っちゃうけど、僕には君らがアクトだった」


最後の曲?が今度出るシングルの「Rollin'Rollin'」
ラッパーの「やけのはら」と競演。
これが終わって時間切れかと思いきや、「1曲踊ろうぜ」
その前にまた話し始める。「僕は歌で会話する人になりたくて、歌い始めたんだよね」
そう言って、「どこから来たんですか?」と節をつけて弾き語る。
「こんなかで誰が一番遠くから来てる?自分だという人は?」
品川、という声が上がる。「そんなの近すぎるよ。そこの男性、あなたは?」
僕の右斜め前に座っていた男性が指差され、新宿と答えると、「ったく、もう・・・」ってブーたれて、
「じゃあ僕が一番遠くからかな。ブータンから」(100%嘘のようでいて、意外とほんとかもしれない)


そんで、始めるよと「みんな、立って」
立ち上がると、「いや、ステージまで来て」みな押し寄せる。
「みんなさ、ステージに立っていいんだよ。あ、女の子だけね」
そしてサンプラーからはムーディーな黒人が歌うヒップホップみたいなのが流れる。
七尾旅人はどこからか取り出したピンクのジュリアナ扇子を手に踊る。


時間切れ終わりってことで唐突に終わる。
ボタンを押し間違えたのか、老人が朗々と詠唱するのが流れる。「これおじいちゃんの歌ね」
最後、ステージに押し寄せる観客に一人一人握手。「いてて。指がちぎれる」
観客が多すぎて、全員には握手できず。僕は残念ながら握手できず。
ステージの上のピックや扇子やあれこれをリュックサックの中に詰めて、
譜面台とギターを抱えて撤収。
そして、「今着てるこのピンクのTシャツ、売ってるから買ってよね」
「ブログを見てね。恋バナとか恋バナとかたまに人の悪口とか恋バナとか書いてます」と。
ついでに、「明日は B'z って名前で出演します!横でギター弾いてる小さい方です!!」


周りは、何やらすごいものを見てしまったと興奮している人たちばかり。
やはり、天才だった。