「人間狩り」的な

朝、会社に来る途中で考えていた話。ありがちですが。


あるとき、巨大な宇宙船に乗って、
文明がはるかに進んだ星から知的生命体が地球にやってくる。
各国の軍隊はいとも簡単に制圧される。
軍事施設だけではなく、エネルギー施設なんかも収容される。
各国政府は一定の制限のもとそれまで通り機能することを許されるが、監視もされる。
生命体は形を持たず、仮の姿として
天上から遣わされた慈父のごとき姿を取って人類の前に現れる。
「使者」と呼ばれるようになる。


彼らが一般市民に対して要求したことはただ1つ。
成人年齢に達したときに各都市に建設された「施設」を訪れ、
使者から与えられたその人のミニチュアを以後一生をかけて育て、養うこと。
サイズは手のひらぐらいで、生きている。
専用の檻というか鳥小屋のような「家」も用意される。
常に本人が側にいて世話をしなければならない。他の人には託せない。
怠ると病気になり、衰弱して死ぬこともありえる。
ミニチュアが死んだとき、本人もまた厳しく処罰される。
つまり、使者によって死が与えられる。


服を着せ、時々着替えさせ、食物も与える。小さな本も読ませ、スポーツもさせる。
ミニチュアは本人そっくりであるが、人類との意思の疎通はできない。
何らかの言語は話しているのだが、使者たちにしか理解できないようになっている。
家を伴って施設を頻繁に訪れて
ミニチュアたちが集まりをもてるようにすることは奨励される。
ミニチュアたちの間で親交が育まれ、
時として恋愛感情も生まれ、やがて子供が生まれる。
その子供は使者に引き渡すことになる。
本人が死んだときもまた、家族のものがミニチュアを使者に引き渡す。
このときは逆に褒賞が与えられる。


見返りとして人類であるならば誰であろうと等しく、「食物」が与えられる。
栄養分が豊かで味もいい。色彩や食感のバリエーションも揃っている。
しかし、なにが原料なのかはさっぱり分からない。
ミニチュアにもそれを食べさせることになる。
日々一定量のパッケージが配達される。本人とミニチュア用に小分けされて。


人類は少しずつ貧困から逃れていく。地域間の紛争も無くなる。
とはいえ、最後のところでの自由意志は剥奪されたようなもの。
人類は二重に、飼育されている。


それが100年も200年も、そして1000年も続く。
使者たちによって寿命も引き伸ばされ、そこはただの牧場のように成り果てている。
言葉の多くを失い、細やかな感情を失い、歴史の積み重ねを失い…
与えられたものを使い果たすだけ。本能的な生殖と睡眠と飲み食い。
心の奥底に刷り込まれた、ミニチュアの世話。


そしてあるとき、始まりのときと同じように突然、使者たちが地球を去る日が来る。
全てのミニチュアが回収され、最後の食物が配布される。
ミニチュアを失い、食物を失い、生きる意欲を失い…
残された人類は…