熊野古道を歩く その9(2/19:那智〜大雲取越〜小口)


6時半起き。というか目が覚めた。5時間しか寝ていない。
温泉に入りにいく。「ホテル浦島」に入りにいく前提なのか、「万清楼」は温泉がひとつだけ。
朝食。サメの皮を炙る。他にひじき、温泉玉子、揚げ出し豆腐、キンピラゴボウ。
うまかった。「万清楼」はまた来てみたい。ゆっくり過ごしたい。
ごはんは一人用の釜で炊いている。
おかわりできますよと言われたけど、頼んだらまた釜が出てくるのだろうか?
デザートはパイナップル。


8時。荷物をまとめてすぐチェックアウト。Fさんが見送り。ここでお別れ。
リュックサックを背負って駅前まで歩いていく。
港では「南紀勝浦C級・SEA級グルメフェア」というのが開催されていた。
C級は珍味、SEA級は海の幸とのこと。1月から3月までの土日が対象。
この日駅前の広場では「南の国の雪まつり」も開催。
雪の積もらない南紀。子供たちのために長野県白馬村から100トンもの雪を持ってくる。
自転車に乗ってきた子供たちが続々と集まってきていた。
紀伊勝浦では他に「ひなめぐり」ということで町のあちこちでおひなさまが飾られていて
その地図が配られていた。3月3日は「ミニまぐろ祭り」も開かれる。
観光に熱心だった。


「ミニまぐろ祭り」は開催内容を見てみるとマグロの一頭造り、マグロ試食、
マグロ汁サービス、カブト焼きサービス、郷土芸能、マグロ重量当てクイズと
これのどこがミニなのか? と。
もしかして「本マグロ祭り」が別なシーズンにあって、もっとすごいのかも。
http://www3.ocn.ne.jp/~nk-onsen/c_new_maguro.html


そういえば紀伊勝浦に宿泊した人の中から毎月1名に
「出前解体付き生まぐろプレゼントキャンペーン」というのがあった。
もちろん僕も申し込んだ。
http://www.nachikan.jp/oshirase/201105maguro-present/


紀伊勝浦の駅前からバスに乗ってそのまま那智大社まで。
乗りかえ無しで行けるのが嬉しい。
最初は新宮に二泊してというつもりだったのがFさんの勧めで1泊は紀伊勝浦へ。
いい宿にも泊まったし、アクセスがよかったし正解だった。


終点で下りて石段を上り、那智大社へ。
9時。青岸渡寺の裏側にある入り口から熊野古道へと入っていく。
この日は小口までの大雲取越ルート14.5kmを歩く。
http://www.wakayama-kanko.or.jp/walk/023/map.html


いきなり急な上り。いつ終わるのか分からないぐらいの。
一昨日・昨日と違って今日は荷物を全部詰めたリュックサックを背負っている。
これが辛い。やはり、重い。本を4冊も持ってくるんじゃなかったとか。
お土産に飴だの帆立紀州煮だの買うんじゃなかったとか。
ウネウネと方向を変えながら石段になり山道になりを繰り返す。
(結局全工程でここが一番苦しかった)


最初のチェックポイントである那智高原休憩所には30分後に到着、
なだらかな坂があって子供向けの遊具施設があった。
僕はトイレに立ち寄っただけですぐ先へと向かう。
その次の登立茶屋跡には10時過ぎ。なかなかいいペースで進む。


この日は最初から最後まで一人きり。
追い越すことも追い抜かれることもすれ違うこともなかった。
木漏れ日。鳥の声。風が木々を通り抜ける。僕の歩く音と呼吸の音しか聞こえない。


世界遺産ということでゴミひとつ落ちていない。
途中、道にペットボトルに茶色い液体を詰めたのがスーパーの袋に何本も入っているのを見かけた。
なんだろう? しかし、その脇に工具袋に入ったチェンソーが置かれていて、
おそらく何らかの森林伐採作業員的な仕事だったのか。
見かけたのはそれぐらい。あとは標識があるだけ。那智まで何キロ、小口まで何キロと。
それが割と頻繁なペースで出会うので迷うことがない。
道が分かれているところも「この道は熊野古道ではありません」と立て札が立てられている。


10:30 舟見茶屋跡。これまでずっと登り道だったのが報われるような、壮大な山の眺め。
舟見峠からは遠くにかすかに勝浦湾が見えた。
登りが続くとダウンジャケットでは暑く脱ぎたくなり、下りに入ると寒くなる。


10:55 色川辻。仕事のことであったり、学校のことであったり。
あれこれと取り留めのないことを考えている。それがずっと続く。
無を埋めるように。湧き上がってくる。細切れの言葉となって。
登り坂が続いて意識は半分ぐらい朦朧としている。


11:15 林道交差。この辺りから小川のせせらぎが聞こえだす。霜柱が見える。
地面をふと見ると白いものが混じっている。苔のわけがない。雪でもない。霜か。


11:25 林道合流。ここからしばらく舗装された道路となる。少し楽になる。
バサバサという音がして、飛び立つ。あれはタンチョウだったのだろうか。
丸太として切り落とされた木々が打ち捨てられたのか、
黄緑色の苔に覆われて現代アートのオブジェのようだった。


11:45 地蔵茶屋。休憩所に囲炉裏があった。記帳があったが、悩んだ末に名前を残さず。
足の踵が痛い。靴擦れとはいかないまでも。マメができてつぶれたのだろうか。
ブーツが合ってなくて、靴下が薄いのだろう。歩けないほどではないので我慢して歩く。


12:00 石倉峠。最も奥深いところに入っていく。
岩の灰色。苔の緑色。霜の白。紫色に枯れた根の這うような植物たち。
細長い木々の幹の茶色。見上げた頭上に木々の葉の緑。
そこに存在する多くのものが苔で覆われていた。ナウシカタルコフスキーを思い出した。
ここは「ゾーン」だ。苔はまるで意志を持ち繁殖する生き物のようだった。
自分がまるで何かの巨大な生物の細胞であるかのように感じた。


12:30 越前峠。熊野小学校、卒業遠足と書かれた立て札が何年分も。10年前のもあったか。
それが根元から抜かれている。誰かが抜いたのか、それとも台風が?
洞切坂。ここから下り坂になっていくのでゆっくり進んでいく。石が滑りやすくなる。


13:30 楠の久保旅籠跡。それぞれ旅籠跡や茶屋跡には
由来やエピソードが書かれた解説板が立っている。ここにはこんなことが書かれていた。
「野菜を植えても猿や鹿が食べてしまうため、干しわらびしか出せなかった」
「『豆腐あります。湯が沸いてます』がここの旅籠の謳い文句だった」
「大正時代までは旅籠として活用されていた。江戸時代には十数軒がここに立っていた」
それらの旅籠も今はなく、石垣が残るのみ。建物は全て土に返ったのか。


さらに下りが続く。足をひねりそうになる。
だいぶゴールに近づいてきた、小口側が見えてきたという頃に
地元のおばさんが立っているのに出会う。
町のイベントの運営スタッフとしてNHKのキャラクターの「わかまるくん」の人形を抱えていた。
「滑るから気をつけて」と言われた側から転びそうになる。


14:30 小口到着。最後は小さな古い民家のあいだをぬける。
ダムが見える。昨年の台風で流された流木で詰まっている。川の水がオレンジ色。
廃校になった小学校があって、そこのトイレを借りる。
ようやく携帯のアンテナが立つ。
小口は川沿いの小さな村。母の故郷のようだった。
いくつか食糧と雑貨を商う店があるだけ。