in case of fire

君の家が火事だ、町中にサイレンが聞こえた
君のいない間に、みんなで取り囲んで眺めた
春、水曜の朝、この町では他に何があるということもなく
僕らはポツリポツリと離れて立って
燃え尽きるのを、何かが新しく始まって終わるのを、
消防車が到着して、ホースを伸ばして、勢いよく水が注がれて
炎が小さくなって消えていくのを、
ポケットに両手を突っ込んで、背中を丸めて
煙たい空気を吸いこんで、咳き込みながら、
ある晴れた日にどことなく集まって焚き火に当たるように、眺めていた
やがてそのときが来て、僕らはそれぞれの家に帰っていく、帰っていった
そしていつも通りの午後を過ごした


君の家が火事だ、町中にサイレンが聞こえた
君の家が火事だ、町中にサイレンが聞こえた
君の家が火事だ、町中にサイレンが聞こえた


そこに君がいなくてよかった
君がそのことを知らなくてよかった
サイレンは遠くからでも聞こえた
他に何も聞こえなかった
静かに君の家が燃え尽きる音に耳を傾ける
そしてそれは何に似ているのだろうと思う
僕らは離れて立っていたから言葉を交わすことがない
もしかしたらそこに全然違うものを見ていたかもしれなかった
誰も君のことは知らなくて
僕ですら君のことは知らなくて
燃えている家がそこにあるだけ
ああ、もう少しで全てが燃え尽きてしまいそうだ


君の家が火事だ、町中にサイレンが聞こえた
君の家が火事だ、町中にサイレンが聞こえた
君の家が火事だ、町中にサイレンが聞こえた