「We Didn't Start the Fire」

ビリー・ジョエルが好きってことはなかったし、今もそうなんだけど、
「We Didn't Start the Fire」って曲のビデオクリップは
中学生のときにたまたま見かけて「うわ、すげー」と記憶に残った。
今見直してみても傑作だと思う。よくできている。
http://www.youtube.com/watch?v=eFTLKWw542g


ビリー・ジョエルが生まれた1949年から
この曲の発表された1989年までの世界の出来事をひたすら列挙して、サビで
「この火は僕たちがつけたものではない、
 世界が始まったときからそれは燃えていたんだ」と歌う。


1949年:ハリー・トルーマンドリス・デイ、レッド・チャイナ...
1955年:アルバート・アインシュタインジェームズ・ディーンエルビス・プレスリー...
1959年:バディ・ホリー、フラ・フープ、フィデル・カストロ...
1964年以後:ホー・チ・ミンウォーターゲートパレスチナ...


クリップでは歌詞に合わせて、
1940年代末に結婚した夫婦に子供が生まれて孫ができて、そして…、
というアメリカン・ファミリーのカリカチュアが描かれる。
3分で分かるアメリカ文化の歴史なわけです。


ビデオクリップというものの全盛期はやっぱ80年代なのだと思う。
それまでに販促ツールとして細々と作られてはいたが、本格的ではなかった。
それが MTV という新しいメディアの登場により突然変異のごとく進化する。
そこには広大なフロンティアが広がっていて、
ミュージシャンや監督が様々な実験に取り組んでいた。
ビデオクリップの文法や定石を生み出していった。
もちろん、かっこよさや美しさで言ったら現代のクリップの方が断然質はいい。
しかし型にはまりすぎなんですね。
あるとしても、その型の中での斬新なアイデア
なかなかその枠組みを押し広げるまでは至らない。


80年代末に製作された「We Didn't Start the Fire」を見ると
MTV言語の完成と円熟を感じる。