箱根再び その4

箱根登山鉄道がのんびりと山間を縫ってゆく。
左側は絶景の斜面。宮ノ下や大平台のひなびた温泉街を見下ろす。
車内の広告は「箱根ラリック美術館」であるとか「富士屋ホテル」であるとか箱根の名所ばかり。
外国人観光客ばかりではなく、山ガールの姿もそこここに。


テープの車内アナウンスが博物館の解説のような口調で沿線の見どころを伝える。
それによるとこの箱根登山鉄道は世界第二位の急こう配を上っていくらしく、
スイッチバックが3か所ある。
折り返し地点に差し掛かる度に先頭の運転室の運転手と最後尾の運転室の運転手とが交代する。
これはもっと空いてる時間に乗ったならば楽しかっただろう。
国道が渋滞していたがゆえに思いがけずささやかながらも鉄道の旅となった。


箱根湯本のひとつ前、塔ノ沢で下りてみる。
同じように外国人観光客が何人か下りる。カメラであちこち撮影する。
斜面の麓にひっそりと開かれた木々に囲まれた小さな駅舎があるだけの無人駅。
「深沢銭洗弁天」がホームにあってお参りしていく。
昨年だったか一昨年だったか妻は家族旅行でここを訪れていて
一万円札を笊に入れて洗ったのを大切に保管しているという。
お金が貯まりますようにと。今回もそうする。
僕も、と思うが財布の中には五千円札のみ。
まあいいかと僕もお札を洗ってティッシュに包んで乾かすが、後利益は半分か…


駅舎を出て斜面を下りていく。
白人観光客が何人かスーツケースを引っ張って上ってくるのとすれ違う。
この辺りの鄙びた温泉宿まで来るものなんだなー。エキゾチックジャパン。
大きなつくりの立派な温泉旅館をいくつか見下ろす。
道路に出ていくつか小さな橋を渡る。きれいな川が流れている。
確かに車は渋滞。バスに乗ってたらまだもっと上の方か。
老朽化により今年から箱根駅伝のコースから外れた函嶺洞門の脇を歩く。


すぐにも箱根湯本の温泉街へ。
18時前。夕暮れ時で多くの店が閉店の準備をしている。
揚げ立てのさつま揚げを食べたかったのだが、見つかったのは一軒だけ。
有名なのかな、「籠屋清次郎」
玉ねぎ棒、ごぼう棒、いわし棒とあって玉ねぎは目の前のお客さんが最後の一個を。
ごぼうといわしを食べてみる。今食べるというと棒を差してくれる。
アツアツ、フンワリ、サクサク。
余りのおいしさに引き返して、帰りのロマンスカーでも食べようともう一度買った。
ここのお土産屋で瓶詰めの「白魚わさび」とわさびのタルタルソース、
味噌と胡桃の入ったしそ巻きなどを買う。
いくつかは帰りの車内で食べて、いくつかはそのうち家で食べようかと。


コンビニで缶ビールを買う。
「箱根限定 じゃがですよ!」というのがうまそうで買ってみる。
じゃがりこ」っぽいんだけど
駿河湾海洋深層水の塩使用 塩味(ほんのりわさび風味)」とあって
これもおいしかった。


川沿いの裏通りを歩く。
面白い看板の店があるというので見に行く。
「いいよね箱根って 箱根の夜は順子におまかせ! 料金はご相談に応じます」
「順子におまかせ」もそうだけど「いいよね箱根って」という他人事感が面白い。


18:48 箱根湯本発。
ロマンスカーは先頭車両の10号車、その展望席を取ることができた。
最前列から3番目。
最前列のまん中は鉄道マニアの方が陣取って
三脚を立て、デジカメで動画を撮影していた。
通過駅を通り過ぎるのを見ていると鉄分が高くなくてもなんだかワクワクした。
缶ビールを飲みながら漱石の『草枕』を飲んでいるうちに気がついたら厚木。
向ヶ丘遊園千歳船橋と新宿まであっという間だった。


山手線で渋谷まで移動する。
田園都市線で帰るつもりが、二子玉川までのバスが出ていることを知って乗っていく。
246沿い。30分ぐらい掛かっただろうか。用賀の先で下りる。
スーパーに寄って明日の弁当の食材を買っていく。


箱根のプチ旅行で終日過ごす。
充実した一日だった。