入院に当たって事前検査 後篇

続いて手術の説明となる。
腹部に 20cm 程度の切開を行う。
この傷跡は残ることになりそうだけどまあ仕方がない。
溶ける糸を用いるため抜糸は不要。


血管を遮断して一時的に血液が流れないようにして
周囲の臓器をよけて腎臓を外に取り出し、仮死状態にして腫瘍を切除する。
手術後の患部からの出血を排出するために
ドレーンという細い管を腹部に刺したままにする。これは数日後外す。
同じく膀胱にはカテーテルを刺す。手術の翌日、歩けるようになったら抜ける。
予定では手術は3時間で終了する。
回復が順調ならば手術の翌日より食事が可能。
血栓ができてエコノミー症候群とならないように歩行も始める。
順調ならば入院から7日目に退院となる。


今回の手術では輸血となる可能性は低いが、
日本赤十字の用意する血液製剤を利用するにあたっての同意書に署名を求められる。
あとそもそもの手術の同意書と。これは入院の日に提出する。


手術後、腫瘍の切除面から出血が止まらなくなることがある。
それが10から14日を経て破裂する。
退院後に見つかると医者の側も患者の側も不都合が大きいため
退院の前日にCTスキャンを撮って状態を観察する。
切断面に接した血管から仮性動脈瘤が生まれる可能性が 10%
動脈へのカテーテル処置を行う可能性が 5%
そうなると退院も延期となる。処置が翌週まで続く。


可能性で言うと腎臓のため、臓器からの尿漏れが 3%
これもやはりカテーテルの処置となる。
手術中に臓器を傷つける可能性もなくはない。
もし仮にそれが胆嚢だった場合、部分切除は不可のため全摘出となる。
しかし僕の場合は今回恐らくそうなることはないだろう、とされた。


退院から2週間後に最初の外来を受診、
その後も数カ月から半年程度で経過観察。
落ち着いてきたと判断があった場合、1年に1度となる。


最後、風邪だけはひかないようにと念を押される。
口腔内に菌の多い状態で麻酔を受けるわけにはいかず、命の危険があるという。
風邪を引くと手術も延期となる。


入院と退院の日程も決まり、
続けて処置室で担当の看護婦の方から入院にあたってのヒアリングとなった。
これまでの病歴やアレルギーの有無、飲酒や喫煙の量、
普段の食事や排泄のタイミングに始まって
エホバの証人のような輸血を受け付けない信仰を持っていないかどうかなど。
面白いのは「性格」という項目があった。
そんなの急に聞かれてもうまく答えられないものですね。
入院で関わりそうなところということで、妻に決めてもらった。
・特徴:呑気
・長所:我慢強い
・短所:人見知り


「限度額適用認定証」はやはり事前に入手したほうがいいという話になった。
何か質問はありますかというので、
長期間休むにあたって会社に医師の診断書を提出が必要と話したら
入院の日に先生にお話しくださいと。
この辺り、医療保険の申請もあるから入院までの間に
どんな書類を書いてもらうことになるか整理しておかないといけない。


手術や入院について不安はありますか?
心境の変化はありますか? と聞かれて特にないと答える。
健診センターで MRI の結果を聞いたときはギョッとしたけど、
見つかったのが早かったので手術は難しいものではないし
その後も普通に生活できること、
全摘出とはならなかったことから今は至って普通の心持ち。


次は1階に移動して入院の手続き。
とは言っても先生がPCであらかた終えているので注意事項を聞くぐらい。
病室は大部屋にするか個室にするか希望を伝える。
そりゃ個室が嬉しいけどお金もかかるし大部屋となる。
ここでもやはり同意書や誓約書を入院までに記入してくださいと。
「外部からの問い合わせに関して、入院していることを知らされては困る」
という患者のための「入院情報取扱い申込書」というのもあった。
大きな病院ともなると政治家や芸能人も入院するのだろう。
支払いについて聞いたら、クレジットカードやデビットカードが可能だった。


13時半過ぎ。最後、CTスキャンを受けに行く。
別な病棟となって妻とはそこで別れる。
予定では14時半からだったが、
早目に受付を済ませるとすぐ行ってもらえることになった。
あれは今から10年前、30歳の記念にモロッコ旅行に行った時以来か。
山道で車の接触事故に遭って頭をぶつけ、かすめた程度だけど
フェズの街の小さな医療機関CTスキャンを受けた。
最新鋭の設備の整ったこぎれいな病院だった。
自分の脳の断面図というめったにないお土産をもらった。


あのときは造影剤を使わなかったけど、今回は点滴で注入した。
脳と内臓では映りが違うのかもしれない。
造影剤が入ると上半身が温まった。
CTスキャンをくぐっている間、何度か息を大きく止めて履いた。
終わった時、看護婦の若い女性が
「かっこいいシャツですね! どこで買ったんですか?」と。
リラックスのためなのか、本当に好奇心だったのか。


14時半に終わる。
会計を済ませ、3階の「日比谷松本楼」へ。
ハンバーグのランチを食べた。
外は雨。さっきまで降っていなかったのに。ゲリラ豪雨
世間はまだ夏が続いている。
ビニール傘を買って外に出る。
ムッとした暑さの中を歩く。
退院の頃は10月になっている。


帰ってきて夕方、妻が妻の父と電話で話している。
入院と手術のことを伝えた。
僕も電話を代わって、今回のことを話した。
心配はいらないよと。