短編のアイデア

・この世界はあるときから、空に何かが浮かんでいるようになった。
 それがどういう形をしてどういう色をしてどういう大きさなのかは
 人それぞれ違う。
 それは何をするわけでもない。ただ、浮かんでいる。
 時々色や形が変化する。


・全く同じものが見えるとわかった少年と少女がいた。
 それはとても珍しいことだった。
 少年の描いた空の絵を偶然覗き込むことに少女がとても驚いた。
 真冬の人気のない公園。階段の一番上に少年は座っていた。
 少女は少年のことが気になるようになる。
 少年のことが知りたいと思う。
 だけど少年の方は少女のことに興味がない。
 最初のうちは。


・少年は手先が器用だったが生き方に不器用で
 少女は生き方が器用だったが手先が不器用だった。
 少年も少女も小さな部屋に一人きりで暮らしていた。
 いや、この世界にはそもそも親子という概念がなさそうだった。
 都市はキューブ状の小さな部屋が不揃いに積み重なったものから成り立っていた。
 少女は街の人たちを騙すことでどうにか生活できるだけの金を稼ぎ、
 少年は食うや食わずだった。少女は少年にパンを分けるようになる。


・出会ってから別れるまで、永遠に離れ離れになるまでの一週間の出来事。
 夕暮れの街を歩き、屋上で夜明けを眺めて、少年の屋根裏部屋で初めてのキス。
 少女の側から誘うような。少年は少女に心を奪われるようになる。
 少年はスケッチブックに少女の絵を描く。
 その背後には空。「それ」が浮かんでいる。


・この世界は遠く向こうで戦争が行われている。
 肺に病を持つ少年は(絶えず咳をしている)徴兵されることはなかったが、
 少女の方は徴兵された。兵士の服が送られてきた。
 すぐにも旅立つことになった。
 その夜、ささやかなパーティーを行う。
 部屋のあちこちにたくさんのろうそくを立てて、ひとつひとつ消していった。


・少女が戻ってくることはなかった。
 少年は一人きり、絵を描いては破りながら過ごした。
 一ヶ月して一枚の死亡通知だけが送られてきた。
 少女は少年をその受け取り先に指定していた。
 少年は屋上に上がった。
 いつもと変わることなく、「それ」が浮かんでいた。