Laibach『Kapital』

iPhone の容量が増えたのをいいことに、
昔聞いてそれっきりになった CD を iTunes に取り込んで聞いている。
これまでは遠慮していたのが、
今は好きなアーティストのアルバムを持ってるだけ詰め込める。
爽快なことこの上ない。


そんな中で最近聞き直して「案外いいじゃん!」となったのが
Laibachの『Kapital』という1992年のアルバム。
ユーゴスラヴィア、現スロヴェニア出身。
架空の国家「NSK」の音楽部門を担当、
80年代は気狂いオペラとアジテーションじみたヴォーカル、
インダストリアルノイズ、原始的なドラムビートの融合、
という他に類を見ない強烈にユニークな楽曲を演奏した。
(そういうのが好きな方は『Neu Konservatiw』『M.B. December 21,1984
 といったライブアルバムを入手して聞いてみてほしい)
1987年、スタジオ作としては3枚目の『Opus Dei』にて
カバー曲を巧みに利用して自らの個性を強烈にアピールするという手法を見出し、
The Rolling Stones「Sympathy for the Devil」をカバーしたシングルを挟んで
続く1988年の『Let It Be』では表題曲以外をカバーして話題を呼んだ。
(トラディショナルの「Maggie Mae」の代わりにドイツの合唱曲が壮大に演奏されている)


1989年の『Macbeth』は確か、NSKによるオペラ作品の劇伴だったか。
3年のブランクを経て発表されたのが『Kapital
ここで一見、いきなり音楽性が大きく変わってハウスやテクノに委ねた。
大学生の頃、帰省した青森市の古本屋で購入した。3年ほど遅れてか。
(今思うと誰がどこで新品で買ったのだろう?)
パンク、ニューウェーブ好きで『Let It Be』には強い感銘を受けて、
かなり期待して CD をトレイに乗せた。
えーなにこれ…?
なんか思いっきり安くっぽくなったように感じられた。
売れ線に走ったというか。
それ以来 CDラックの中で眠っていて、20年以上聞いていなかったと思う。


この頃ジャケットには4人の姿が写っていたけど、
バーチャルなバンドなのでなんとでも演奏というか録音できたのだろう。
今思うとこの当時ユーゴスラヴィアというか
東欧に入ってきたダンスミュージックの見本市のようなものか。
彼らの根底にあるのはアナキズム。反ポップ・ミュージック。
あえて有名な曲のカバーを大げさに披露することで反語表現として表していたことを
今度はダンスミュージックを相手にやってみせた。
ほら、みんな、踊りたいんだろ? と。


1/3 ぐらいの曲は今聞いてもたいして面白くはなく、
Laibach の面白さが漂白されてしまっていると思う。
外部プロデューサーによるリミックスのままにとどまっているかのような。
前半のほとんどがそんな感じ。淡々としている。
だけど「Young Europa」「The Hunter's Funeral Pocession」など
中盤から後半にかけての曲で
かつての過激で濃密な音がちらほらと見え隠れするようになる。
恐らく過去の音源のサンプリングなんだろうけど、
オーケストラにピアノに女性ヴォーカル、インダストリアルパーカッションと
印象的な音がコラージュ、カットアップされては消えていく。
何曲かカットしてベースを上げ、
パーカッションをもっとクリアにマスタリングし直したら
かなり評価が変わるんじゃないか。


Laibach が音楽的に尖っていたのは残念ながらここまで。
次作、1994年の『NATO』は良くも悪くも
はるかにわかりやすく、聞きやすくなってしまった。
ダンスミュージックとしては可もなく不可もなく
滑らかに四つ打ちを鳴らすというような。
大仰なオーケストラは残っているので Laibach らしさは残っているものの、
それまでのヒリヒリするようなノイズはほとんど聞こえなくなった。
というか以後、こんな感じの音楽を拡大再生産するようになってしまうんですよね。
Europa「Final Countdown」Pink Floyd「The Dogs of War」Status Quo「In the Army Now」など
旧ユーゴ内戦時代に戦争の曲をカバーするという発想がそもそも分かりやすすぎる。
でもまあオーケストラとダンスミュージックの融合としてはうまくいってる方なので
「Final Countdown」を大きな音で聞くと不覚にもテンション上がってしまう。


その後、Laibach は政治的姿勢としての謎めいた前衛さは保ちつつ、今も活動を続ける。
2015年には西欧のロックバンドとして初めて、北朝鮮でコンサートを行った。
その時のことは以前も書いたけど、
ドキュメンタリー映画北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』として残されている。


補足:
Kapital』はレコード、カセットテープ、CDなど
フォーマットによっていくつかバージョンがあるようで、
CD版は残念ながら1曲カットされている。
それが『Let It Be』で「Across the Universe」の美しいカバーを披露した
女性ヴォーカリスト Germania の歌った曲。そこが残念。


入り口にはいいかもしれない。本来はこの正反対の過激な音ですが。
「Laibach - Across the Universe (Official video), 1989」
https://www.youtube.com/watch?v=OTQcJx7xqAc