猫と宇宙

時々みみたが壁に向かって、何もないはずの宙をじっと見つめていることがある。
蜘蛛や虫がいるのかというとそうでもなく、前脚を伸ばすことはない。
ただ見つめている。そしてニャアと鳴く。
そこに何かがいるかのように。
 
猫や犬にとっては死後の世界がごく近いところにあって、
既に亡くなって霊体となった猫や犬が見えるのではないか。
時々、気まぐれにこちら側にやってくるのではないか。
そういうことを考える人たちがいつの時代もいた。
僕も、そういうことなんじゃないかと思う。
人類は進化の果てに多くを失ったため、見ることができない。
いや、人類のうちのごく限られた人にしか見えない。
 
系統樹上下等な生物ほど向こう側の世界が近いとしたら。
向こう側とこちら側の世界の違いがなく、
生きるものと死せるものとが混ざり合って生と死を送っているのなら。
それが豊穣な自然界を形作る。
 
人類はこちら側の生と向こう側の死という概念を生み出し、はっきりと分けてしまった。
その人類が死者の場を奪っていくと自然界のバランスが崩れていく。
なんだか宗教がかった話になったが、そういうことなのかもしれない。
 
(そして最後に何かが崩壊して、この世界は死者だけとなる)
 
みみたは誰に会っているのか。
この土地にいた先輩猫なのか。
みみたを産んだ母猫や野良となって若くして亡くなった兄弟たちなのか。
 
……いや、ただ単に食べたばかりのカリカリをおなかの中で落ち着かせるために
立ち止まってるのが思案気に見えるだけなのか。
そっちかな……