爪というもの

ある晩、妻が言う。
昔の人って爪、どうやって切っていたんだろう? 原始人とか。
…確かに。
今なら爪切りの類でいろんなのがあるが、それがない頃はどうしていたのか?


昔、子どもの頃に「世界ビックリ人間大集合」のような番組で
世界一爪の長いインドの人、みたいなコーナーが必ずあったけど。
左手の爪を伸ばし放題にして、
それぞれがシュルシュルとカメレオンのように丸まっている。
今思うと生活しにくいだろうなあ。片手が使えないわけで。


猫と暮らしてみて、朝昼晩と事あるごとに
バリバリバリと爪を研いでいるのを見ると、
昔の人は同じように大木の幹に向かい合ってやってたのではないか。
それでいくと、猿はどうなのか。
爪の長い猿は見たことがない。どうしているのか。


逆に言うと、人類の爪は鋏などで切ることを覚えてから、
もっと伸びるようになったのではないか。
ある種のアフォーダンスのようなもの。


土を掘ったりしていると自然に磨り減っていった、ということになるのかな。


それでいくと昔の人は親知らずをどうやって抜いていたのか。
自然に抜け落ちるのを待っていたのか。まさか、そんな。
でも、食生活が変わって人類の歯は虫歯になりやすく。抜けにくくなったのかもしれない。
歯の痛みをどうすることもできずに死んで行った人も大勢いるのだろうと思う。
というか歯に限らず、昔は治せない病気や怪我であっさりと死を迎えた人が多いのだ。
菌というものの威力は絶大だった。
現代の、無菌室に近づけるのを目標とするような社会はある意味異常なのだ。


小さな娘が病気で亡くなったあと、
形見の市松人形をある日見てみると髪が伸びていたという話がある。
あれも人形に爪をつけていたならば、伸びたのか。