パスポートが切れていた

ふと思い出して、あれ、どうなってたっけ?
と机の引き出しからパスポートを出してみたら期限が切れていた。
2010年の7月から2020年の7月までだった。
コロナ禍のど真ん中。
更新期限が近づいていると知っていても更新は躊躇しただろう。
渡航制限が掛かっていて、海外なんて行けるのか?
不要不急の外出は控えてしかるべきという世の中の雰囲気で
パスポートセンターに行ったら白い目で見られるんじゃないか? と。
そんなふうにしてパスポートを切らしてしまった人は結構いるんじゃないか。
2020年が切り替えだった人。
 
コロナ禍に関係なく、そもそも結婚しては海外旅行から縁遠くなってしまった。
最後の海外は2019年1月の、義弟の結婚式で言ったグアムだった。
そういう名目がないとなかなか難しかった。
 
2010年の7月という日付に
最初に作ったのが1994年の7月だったことを思い出す。
大学2年の夏、抽選に当たって語学研修生に選ばれ、モスクワへ。
立川のパスポートセンターに手続きに行った。
7月のものすごい暑い日だった。
小平から自転車で立川まで行ったら死にそうになった。
その時つくったのが恐らく5年間有効のものだったんじゃないか。
1999年7月まで。そこで一度切れる。
大学時代に海外に出たのはその一度きり。
2000年に入って入社2年目、アメリカのフォートワースへの海外出張があったので作り直す。
それが2010年7月に切れたんじゃないか。
 
パスポートを改めて見返す。
2011年2月にベルリンを訪れている。ベルリンの壁を見に行った。
30代後半独身ということでお金があった。
2011年3月には福岡港からフェリーに乗って釜山に行った。
東日本大震災直後なのにいいのかと悩んだけど、思い切っていってみた。
2012年のスタンプがない。
これは一週間の休みに熊野古道を歩く旅に出たからだ。
2013年には稚内港からやはりフェリーに乗ってサハリンへ。
これが結果として最後の、独身での海外旅行となった。
 
無造作に押したスタンプのひとつひとつが
記憶を呼び起こすきっかけになった。
期限の切れたパスポートには何の使い道もないけど、
僕の中の一部分を切り取った分身でもある。
これは人生の最後の最後まで取っておくのだろう。