「Lost In Translation」「殺人の追憶」

クリス君と「ゴールデンウィーク映画見に行きましょう」という話になって、
Lost In Translation」「殺人の追憶」この2本を見に行くことになった。
前者は僕からの要望で後者はクリス君からの、ということになる。


まずは渋谷シネマライズにて「Lost In Translation
ぴあを見たら通常は10時45分からなのであるが、
ゴールデンウィークの間はもう1コの箱でも平行して上映するようで
10時15分からのもあるようなことを書いてある。
この「Lost ・・・」はシネマライズの動員記録を塗り替えたらしく、
休日の昼間にふらっと行ったら確実に立ち見になりそうなくらい客が入っているようだ。
だったら10時15分の回に早めに行ったほうが無難だねえということに決まる。


渋谷の駅に集合は9時30分。
行ってみたら窓口はしまっていて、
「どういうことだ?」と窓口の周りをあれこれ探ってみると
10時15分からの回は5月1日からと張り紙してあった。
仕方なく坂を下りて近くのコーヒーショップに入って時間をつぶし、
10時を過ぎてそろそろ行くかと戻って見たら
窓口は既に開いていて、長蛇の列ができている。
シネマライズ2階の階段から1階までずらーっと。
たった30分の間になんということか。
こんなことなら並んでおけばよかったと思う。
まあその後十分いい席で見れたんで、オーライなんだけど。


「Lost ・・・」は「ヴァージン・スーサイズ」のソフィア・コッポラ監督の2作目。
全編東京ロケの異色作。
カメラマンの旦那にくっついて日本にやってきた20代前半のまだ若い女の子と
200万ドルというギャラでサントリーのウィスキーのCM撮影のため
来日した家庭生活に疲れきった中年の男のちょっとした邂逅がテーマ。
特にこれと言ってストーリーとしての起伏はなく(でもアカデミー脚本賞を獲得)、
日本というか東京の奇妙(ストレンジでファニー)な風景が
前景に来たり後景に来たりを繰り返す、言ってみればただそれだけの作品。


外国の監督が東京を描いたときによくあるような
目先のエキゾチックさにどうしても惹かれてしまい、
ヴェンダースの「東京画」を僕は今思い出している)
それらしい光景がたくさん出てくる。
パチンコ屋とかゲームセンターであるとか、あるいは仏閣、生け花教室。
そして渋谷駅前の交差点と新宿靖国通りのけばけばしい夜景。
でもまあさすがに東京を紹介するための映画では当然なくて。
かといってニューヨークだのパリだの上海で撮ってたら成立しないのは明らか。
なんなんだろうな。
不思議な場所に来ることで少しばかり不思議な気持ちになった、
なんとなく切ない気持ちになった、
そういう趣旨を伝えるには「東京」は的確な選択だった。


さっき「ただそれだけの作品」と書いたんだけど、
あくまで作品の上っ面を眺めたときの話。
なんかうまく言えないけど不思議な魅力が全編に漂っている。
ヴァージン・スーサイズ」のような女の子ワールドではなく、
それでいてこれみよがしに故郷への思いを募らせるでもなく。
この映画を素敵なものとして成立させるためのサムシングってのがふっと存在している。
これってたぶん主役の2人がどういう人間であって、
そのとき何を感じているのかってことが
きちんと描けているからなのではないかと思う。
ささやかな心のひだとでも言うべきものを大事にしている。
これって結局は一見起伏のないように見える脚本が
簡潔にして密度の濃い良質なものだったからなのではないか。


主演のビル・マーレーもいいのであるが、
シャーロット役のスカーレット・ヨハンセンがたまらなく、いい。
表情でもっていけるタイプ。
最後の方、歌舞伎町の路上で別れを惜しむように抱き合う2人、
肩越しに垣間見える表情に心の中唸ってしまった。
肩に隠れて目しか映っていないのだが、視線だけで全てを語っていた。
(女優の表情に「おお」と思ったのは「チョコレート」のハル・ベリー以来)
この女優、そのうち大化けするかもね。
最近よく予告編を見かける「真珠の耳飾の少女」の印象的なヒロインも
この子だということがわかった。

    • -

その後クリス君と韓国料理屋にて感想を言い合い、
劇中に出てきたストリップクラブ「オレンジ」ってあるのかなあ、
あるんなら行きたいなあという話をする。


新宿に移動する。歌舞伎町へ。
ついさっき映画で見た風景が広がっているのって不思議な気がした。
映画とリンクしているようなしていないような・・・。

    • -

殺人の追憶
昨年の韓国で興行収入 No.1 の刑事もの。
毎日新聞の映画評では絶賛されてたような記憶がある。


このところブームという時期を過ぎて完全に日本に定着した感のある韓国映画であるが、
僕はこれまで1本しか見たことがない。その1本もタイトルは忘れてしまった。
猟奇的な殺人事件ものだったように思う。


韓国の農村で起こった実在の事件を題材にしている。
雨の日に若い女性を襲い、手足を縛ってレイプして殺害。
女性の下着を猿ぐつわ代わりに利用。
膣の中に桃やスプーンを突っ込むというケースあり。
最初の頃の被害者は決まって赤い服を着ていた。
正常な神経を持った人からすれば異常としか言いようのない犯行。
86年から91年までの間に半径2kmの範囲で10件の同様の事件が発生し、
180万人の警官を動員し3000人の容疑者を取り調べたものの、
犯人は依然として見つかっていない。


村出身の叩き上げタイプの刑事とソウル出身の大学出の刑事の2人が主人公。
叩き上げタイプの刑事は後輩のもう1人の叩き上げ系の刑事と共に
でたらめな証拠を元に容疑者たちを無理やり自白させる。
大学出の刑事は科学的な捜査、記録を丹念にあさる論理的な捜査を身上とするが
手がかりにたいしたものはなく、捜査はなかなか進展しない。
刑事たちの間で焦りばかりが募るようになる。
自白強要のための暴力が村人たちやマスコミから非難されるようになる。
刑事たちは追い詰められる。
事件を追い詰める、ではなく、事件に追い詰められる。


最初から最後までテンションは緩むことなく、圧倒的なまでに力が漲っている。
苛立ちと焦燥感が張り詰めきったところで最後のクライマックスになだれ込む。
見事としか言いようがない。
映画の中は終始曇ってるか雨が降っていて、鬱屈した雰囲気で息が苦しくなる。
それでいてユーモラスな場面で笑える部分も多々あって息抜きになる。
一言で言うと「充実」ってことになるのかな。
娯楽作品としてよく出来ているのに、当時の時代背景の再現も(たぶん)的確で
韓国人ならば当時の社会状況や観た人自身の過去、
もちろん事件そのものに関してもあれこれ考えてみたくなるような
そういう側面もしっかりとある。


こういうよく出来た映画が年間 No.1 なのってなんだかうらやましい。


当面の間日本映画は韓国映画に勝てない、
個々の作品はともかくとして国同士の比較で言ったら
そのパワーにやられっぱなしなのではないか。
「オアシス」見に行こうとして結局いけなかったんだよな。
「シュリ」や「猟奇的な彼女」といったちょっと前の作品も観てみたくなってきた。

    • -

その後クリス君と24時間営業の養老の滝で一杯引っ掛けて帰る。
平日の昼間、まだ5時にもなってないのにビールを飲み始める。
映画もよかったし愉快なことこのうえない。


次の映画はどういうのを作ろうという話になる。
クリス君と僕ともう1人どこかから見つけてきて
夏を題材にした短編のオムニバスを作るのはどうか、ってんで案を出し合う。


その後別れて僕は新宿の TSUTAYAゴールデンウィークに観る DVD を山のように借りる。

    • -

今日見た2本ともお奨め。
でもさすがに「Lost ・・・」は誰にでも、とはならないな。